思春期&若年成人「AYA世代」 がん入院の孤立防げ
同年代の病棟を近くに 就職や結婚の体験聞く会

「友人や付き合っている人にがんを打ち明けられましたか」「子供にどう寄り添えばよいでしょうか」
昨夏、静岡県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)にAYA世代の患者と家族ら約100人が集まった。その時期にがんを経験した人も参加し、「一度話してしまえば楽になれる」「子供のがんに責任を感じて泣くより、笑って励まして」などと助言。同世代で悩みなどを共有する試みは好評で、「私の入院時にもこうした会があれば」という声も寄せられた。
AYA世代に明確な定義はなく、国や研究機関によって「15~29歳」「15~39歳」と幅がある。国立がん研究センターの2012年の推計で、15~39歳でがんにかかったのは全国で約2万人。全体の2%程度だ。

熟練医師少なく
罹患(りかん)するがんは様々だ。15歳未満がかかりやすいとされる白血病や悪性リンパ腫、脳腫瘍のほか、肺・胃・子宮など中高年に多いがんもある。「若者のがん」の治療経験がある医師は少なく、抗がん剤の投与量・期間に関するデータは乏しいのが現状だ。
患者が少ないため、成人前後でも小児病棟に入院したり、中高年の多い病室で過ごしたりする。周囲に同世代はおらず、話し相手がいないなど孤立感が問題とされてきた。
このため静岡がんセンターは15年6月、病棟6階東側にAYA世代が比較的多い小児科と整形外科を集約。うち38床を「AYA世代病棟」に位置づけた。
AYA世代の入院患者は5人ほどだ。小児や中高年との同室もあるが、他の診療科とも協力してなるべく近くに同世代が入院する状況にしている。石田裕二小児科部長は「そうした環境にあるだけで大きな意味を持つ」と話す。
病棟には漫画やテレビゲーム、パソコンが置かれたプレールームもある。ここで定期的にたこ焼きやピザパーティー、ゲーム大会を開催し、若者同士が仲間になれるよう工夫する。AYA世代と経験者を招く相談会は年に数回ある。
同病棟で悩み相談に応じる阿部啓子チャイルド・ライフ・スペシャリストは「独りで悩みを抱え、誰にも相談せずに学校を退学してしまう患者もいる」と指摘。主治医や看護師などと連携し、支援充実を進める。
大阪市立総合医療センター(大阪市)はAYA世代のがん患者のための対策委員会を15年に設置。静岡がんセンターと同様に、学校や仕事、妊娠についてこの世代でのがん経験者から話を聞く会を開いている。患者同士の集まりも今後、月1回程度開催する予定だ。
高校生に院内学習
治療中の学習にも力を入れる。院内学級は小中学生向けで、高校生は学べない。そこでボランティアの大学生約10人が先生役となって週1回、学習支援の場「てらこや」を開いている。入院患者だけでなく、外来患者も利用できる。
各診療科と連携し、同世代の患者に近くに入院してもらう努力もしている。ただ原純一副院長は「異変があれば主治医にすぐ診てもらえるよう、担当科に入院した方がよい患者もいる。多感な思春期などは同世代が集まっていた方がいいと思うが、治療上の観点から全員は難しい」と話す。
AYA世代に寄り添うための病院の模索は続く。対策委員会の多田羅竜平委員長(緩和医療科部長)は「退院後に円滑に社会生活を送る仕組みをつくるには、学校やハローワークなどとの連携も不可欠だ」と指摘する。
◇ ◇
本格的な対策これから
AYA世代のがん患者への国の対策は緒に就いたばかりだ。2007年度から5年ごとに策定された第1期、2期の「がん対策推進基本計画」には支援が盛り込まれなかった。患者や家族らの充実を求める声を受け、17年度からの第3期計画には入れられる見通しだ。
AYA世代は少ないことなどから、がん対策で重視されなかった。国が初めて打ち出したのは15年12月。「がん対策加速化プラン」で治療施設の整備や後遺症などのフォローアップ充実を明記した。
厚生労働省の研究班は19歳~40歳未満の患者らを対象に、生活上の問題など実態を調査。それを基に昨年9月、▽医療機関への相談支援窓口の設置▽治療実績などを集計した上での対策の検討――などを提言した。これらを参考に、第3期基本計画は6月にまとまる予定だ。
(吉田三輪)
[日本経済新聞朝刊2017年1月15日付]
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