リカちゃん人形、誕生50年 時代映し続けるアイドル
家族・住まいから身長まで
リカちゃん人形が誕生して今年で50年。累計出荷数5300万体を超えるリカちゃんは子供たちの夢とあこがれだけでなく、時代を映し続けている。
高度経済成長期まっただ中の1967年、仕事帰りのお父さんはおもちゃ売り場に並んだ。その年の7月にタカラ(現タカラトミー)が売り出したリカちゃんはハウスとセットで1580円。大卒の初任給が約2万6千円の時代だが、年末までの半年間で50万体近くも売れた。それから50年。半世紀を超えて売れ続けるモノなどそうはない。オバケ商品と言われるゆえんだ。
福島県小野町の工場に併設した博物館「リカちゃんキャッスル」を訪ねた。小野町は平安時代の美女、小野小町の生誕の地とされている。リカちゃんが作られるのに実にふさわしい場所ではないか。
製造工程を見学できる2階に歴代のリカちゃんやハウスが並んでいた。入り口には生みの親でタカラ初代社長の佐藤安太さんのメッセージがある。「家族の絆や社会の仕組みなど、生きてゆくのに必要なさまざまな事を学ぶことができるよう願いを込めて作られています」
その言葉通り、リカちゃんは少女の宝物に育っていく。リカちゃんの「本名」をペンネームに持つ精神科医の香山リカさんは著書「リカちゃんコンプレックス」で「リカちゃんのお洋服やテーブルセットを買ってもらおうという目的のためのみに、学校の勉強をせっせとやるようになっていきました」と書いている。
瞳の星の数増え 華やかな印象に
リカちゃんには人格が与えられている。白樺学園に通う11歳の小学5年生。おうし座でO型。デザイナーの母とフランス人の指揮者を父に持つハーフの女の子だ。
初代はミニスカート姿。発売した67年にミニの女王、ツイッギーが英国から来日している。初代は瞳の白い星が1つで寂しげだが、72年からの2代目の瞳の星は白2つ、茶色1つと華やかになった。82年に登場する3代目は少し垂れ目のあどけない顔立ちだ。当時のアイドル像を反映している。87年から現在まで続く4代目の特徴は初代に比べ身長が1センチ高くなり、スタイルが良くなったことだ。
2000年の沖縄サミットでは、30代になり外交官として活躍する「サミットリカちゃん」が各国代表らへの記念品として贈られた。リカちゃんは永遠の11歳と、憧れのキャリアウーマン像として年を重ねる2つの人格がパラレルワールドを生きている。
家族には世相が色濃く投影されている。父親ピエールが登場するのは1989年。前年の88年には全国の弁護士が初めて「過労死110番」を設け、働き過ぎの父親の家庭回帰が叫ばれていた。22年間も父親不在だった理由は「悲劇のヒロインというイメージに加え、会社人間の父親はままごと遊びに必要なかった」(タカラトミー広報課の村山麻衣子さん)からだ。
家庭回帰したピエールは2014年、厚生労働省が後援するイクメンオブザイヤー(キャラクター部門)を受賞する。リカちゃんには双子の妹と三つ子の弟妹がいる。ピエールは36歳で6人の子持ちだ。受賞は当然といえよう。
高齢化社会を背景に父方の祖母エレーヌが1992年に登場した。2011年の東日本大震災で家族の絆を意識するようになり、母方の祖母香山洋子も翌年発売された。リカちゃん自身は長引く景気低迷を吹き飛ばすために99年に「リカちゃん七福神」「笑うリカちゃん」が登場した。
億ション・ヒルズ 住宅も憧れ反映
ハウスからは住宅事情の移り変わりが分かる。初代リカちゃんハウスは応接間1室とシンプルだが、71年に日本最大規模の多摩ニュータウン(東京都多摩市など)の入居が始まると「リカちゃんマンション」が出た。
憧れを反映して「白い白い家具シリーズ」(72年)、「ゆったりさん2LDK・3LDK」(84年)と部屋が広がり、マンション価格が1億円を突破したバブル期には「ひろびろオクション」(88年)が登場する。2003年に六本木ヒルズができて、04年に「ヒルズ族」が流行すると、立体的な「ハートヒルズマンション」を商品化した。
リカちゃんは今やSNS(交流サイト)で発信し、企業のキャンペーンで活躍する。15年には大人向けのスタイリッシュな新ドールが登場した。リカちゃんキャッスルの佐藤さんのメッセージはこんな言葉で結ばれている。
「リカちゃんは、日本が世界に誇る『COOL JAPAN』の象徴の一つとして取り上げられるまでになりました。リカちゃんのさまざまな魅力に多くの方が触れていただき、心豊かな社会が広がってゆけば望外の喜びです」
細かい人格設定 でも遊びは自由
詳細な人格があるリカちゃんに対し、米国のバービーに細かい設定はない。「自由な発想で遊べる米国人に対し、日本人は条件を与えられないと遊べない」という比較文化論がある。本当だろうか。
リカちゃんキャッスルの着せ替えコーナーでは、オリジナルの人形を作り、持っていたぬいぐるみと遊ぶ親子がいた。自由な発想だ。とても楽しそうだった。
(大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2017年1月14日付]
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