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歌舞伎「お披露目」当たり年 襲名や子役初舞台相次ぐ

 

2017/1/10付 日本経済新聞 夕刊

 歌舞伎界で今年、襲名や子役の初舞台の披露公演が相次ぐ。世代交代を進め、伝統芸能ならではの興行を前面に押し出すことで、歌舞伎界全体の底上げや新たな観客獲得が期待される。

 「81年ぶりの(名跡)復活。代々の右団次の名を辱めることのなきよう、懸命に努力精進を積み重ねていく所存にござります」。東京・新橋演舞場で今月27日まで公演中の「寿新春大歌舞伎」で、初代市川右近が三代目市川右団次を襲名。披露口上の一幕で自らの新しいスタートにあたっての決意を述べた。

■ケレン売りの名跡

 襲名演目のひとつ「雙生(ふたご)隅田川」は師匠の三代目市川猿之助(現猿翁)が復活した大作だ。ケレンと呼ばれる早がわりや宙乗り、大量の水を使って魚と格闘する立ち回りといった派手な演出を立て続けに見せ、客席を沸かせる。市川姓を名乗る俳優の宗家となる海老蔵のほか、四代目猿之助や中車(香川照之)らが共演。猿之助は「大名跡の襲名は家門の誉れ」と祝福した。

 新右団次は日本舞踊家元の長男として1963年、大阪で生まれた。子役を経て75年に三代目猿之助に入門。初代右近を名乗り、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」で主演を勤めるなど門弟のリーダーとして一門を支えた。歌舞伎の家系出身でない俳優による異例の襲名は、これまでの活躍が評価されていることを受け、海老蔵が提案したという。

 初代と二代目の右団次はケレンを売り物にした上方の人気俳優だった。二代目の亡くなった36年以来空席となっていたが、ケレンを得意とする新右団次にふさわしい名跡として復活案が数年前に浮上。関係者の賛同を得て、襲名披露が実現した。右団次自身も「門閥外から歌舞伎を目指す人の光明、道標になれれば」と喜びを語る。

 同時に新右団次の長男、武田タケルが二代目右近を襲名して初舞台を踏んだ。6歳の新右近は「雙生隅田川」で史上最年少とされる早がわりを披露。多くのセリフをこなして物語の軸となる子役を演じる。

 歌舞伎俳優の子が歌舞伎の道を進む場合、まず「初お目見得」として本名で舞台に出るのが一般的だ。これは舞台上であいさつするだけか、少ないセリフの役で登場するもの。セリフの多い役を演じることは少ない。本格的に歌舞伎俳優の道に進む第一歩が「初舞台」。親や一門ゆかりの名跡など、歌舞伎俳優としての芸名を名乗って子役を演じ、新右近もこれに当たる。

■父と同じ演目

初舞台を前に篠山紀信(左端)による写真撮影にのぞんだ勘九郎一家(昨年12月、東京・歌舞伎座)

 来月は東京・歌舞伎座の「猿若祭二月大歌舞伎」(2月2~26日)で、中村勘九郎のふたりの息子が初舞台を踏む。勘九郎の5歳の長男、波野七緒八が三代目勘太郎を、3歳の次男哲之が二代目長三郎を襲名する。

 披露演目は「門出(かどんで)二人桃太郎」。87年、当時5歳の勘九郎と2歳下の弟、七之助が初舞台を踏んだのと同じ演目だ。亡き祖父の十八代目勘三郎も59年、3歳の時、初舞台で桃太郎を演じており、ゆかりの深い役で幼いふたりが歌舞伎俳優のスタートを切る点でも話題を呼んでいる。

 昨年12月には勘九郎と七之助が初舞台で使用した鎧(よろい)を身につけて写真撮影に臨み、七緒八は「緊張した」、哲之は「立ち回りが楽しい」と笑顔をみせた。勘九郎は父親としての緊張感をのぞかせつつ、「感慨深い。亡き父も必ず見守ってくれていると思う」と話す。来月の「桃太郎」には尾上菊五郎、中村時蔵、中村芝翫、市川染五郎らが出演。劇中で口上を述べ、花を添える。

 さらに今年5月の歌舞伎座「団菊祭」で、坂東彦三郎が自身の名跡を長男の亀三郎に譲り、楽善を名乗る。あわせて亀三郎の長男が初舞台を踏む。来年1~2月には松本幸四郎一家による親子孫の3代同時襲名も控える。市川団十郎や勘三郎らスターを相次ぎ失った歌舞伎界にとって襲名披露は世代交代を進める好機だ。

 評論家の矢野誠一氏は「襲名には俳優の力を高める効果が必ずある。さまざまな演劇ジャンルがある現在、襲名というイベントが歌舞伎界の武器としても再認識されている。お練りなどを通じて歌舞伎の華やかな魅力を社会にアピールするよい機会でもあり、新たな顧客獲得にもつながるだろう」と期待を寄せる。

(文化部 小山雄嗣)

[日本経済新聞夕刊2017年1月10日付]

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