第四次産業革命 クラウス・シュワブ著
各分野の変革を大局的に分析
本書は、世界の官民学のリーダーが集い世界情勢を議論する国際機関、世界経済フォーラム(ダボス会議)における議論をふまえ、世界で起きつつある技術革新の近未来図と、それらがもたらす変革をよりよい将来のためどう生かすか、について著者の考えをまとめたものである。変革は主に産業界で起きているが、その影響は社会構造や安全保障など幅広い分野に及ぶ。複雑な現象を大局的な視点から整理し、変革の本質を分かりやすく分析し、われわれが向き合うべき課題を提起している。
われわれがいま目にしている先端的技術の急速な進歩、すなわち人工知能・ロボット・3Dプリンター・IoT・バイオテクノロジーなどは、1960年代に始まったコンピューター・デジタル技術の発展(第三次産業革命)を基礎としながらも、21世紀に入ってから、今までとは質的に異なる大変革となりつつある。著者はこれを第四次産業革命と呼び、現在、世界はその入り口にいると考える。さまざまな分野の先端技術が同時発生的に融合しながら発展するところに特徴があり、これまでの産業革命を上回る勢いで進展している。インターネットを通じた流通や宿泊施設・自動車のシェアリングなど、新たなビジネスも生み出し、産業界の構造変化をもたらしている。
一方、第四次産業革命は、消費者に利便をもたらすと同時に、既存の社会構造を根底から変容させ、人々の生活に悪影響を及ぼす可能性があることも忘れてはならない、と著者は警告する。技術革新が労働分配率を低下させ、一握りの人々に利益が集中し、社会の構造的な不平等が増大するリスクである。不平等は社会不安を生み、過激主義の温床となるばかりでなく、ネットを通じ国際的な武装集団の台頭にもつながっている。
社会の安定と安全保障の面からも、第四次産業革命に対応するための新たな富の分配ルール、社会システム、国際協調のプラットフォームなどを構築することが不可欠であるという指摘は、現在世界が直面している問題の本質を言い当てている。
本書は、各分野における技術革新のトレンドとその近未来的な予測を通じて、企業経営がどうあるべきかというミクロ的な視点と同時に、産業や社会の構造変化に対して政府がなすべき役割、安全保障面における国際協調の必要性、さらに技術の進歩がもたらす新たな倫理面の課題など、さまざまな問題提起を通じて読者の意識を高めてくれる一冊だ。
(経済評論家 小関 広洋)
[日本経済新聞朝刊2016年12月4日付]
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