大量のポトフ、驚きのリメーク オムレツやピザに変身
牛肉や野菜を煮込むポトフはフランスの家庭料理の定番だ。大量に作るとおいしいが、毎日では飽きる。上手にアレンジして、家族にどこまでリメーク料理だと悟られずに済むだろうか。
フランスでポトフは最初にスープのみをいただき、肉と野菜はマスタードや粗塩、コショウを添えてメーン料理として味わう。ポトフを「調理済み具材の集まり」と考えれば、いろんな料理に展開できそう。肉、ジャガイモ、ニンジンといえばコロッケに変身させる手はあるはず。ジャガイモをマッシュしてみよう。
長時間煮込んだジャガイモは水分をかなり吸っている。ところがマッシャーで押しても簡単に崩れない。最初からつぶすために細かく切ってゆでるのと違い、ごろごろポトフからつぶすのは至難の業だと分かった。断念する。
それならつぶさずにさいの目に切ってスペイン風オムレツの具に使えないか。ジャガイモ1個に対し卵2個、ポトフのスープと牛乳を大さじ各2ほど加えてフライパンで蒸し焼きにする。塩こしょう少々だけで十分に味は整う。なかなかの出来栄えに、食べた夫もポトフのリメーク版だと気づかず「これ、うまいな」と満足していた。
水分を飛ばさず 味付けも要らず
ただ、鍋から取り出した具材をまな板に載せて切ると、スープがしみ出して扱いづらい。焼いたり揚げたりするために水分を飛ばすのでは、生の素材から作るより余分に手間がかかる。それならばと取り出したのは厚手のグラタン皿だ。ソースを加えてオーブンでポトフを焼くという作戦だ。
バターや小麦粉から丁寧にホワイトソースを作る……なんてことはせずに、ポトフに生クリームを注ぎ、チーズを振りかけて焼いてみる。具材は十分に味が染み込んでいるから、味付け作業を省いても大丈夫なはず。いい香りのグラタンが出来上がった。小学生の息子はぺろりと平らげ「とろとろしておいしい、また作って」。よし、いいぞ。
やや汁っぽかったのは残念だが、初めに具材をグラタン皿に入れてから、ポトフのスープと生クリームを交互に少しずつ加え、程良いとろみに仕上げれば完璧になる。
手間を省いて、バターを塗った皿にポトフの野菜を乗せ、パルメザンチーズとパン粉をまぶして焼く。香ばしいパン粉焼きはグラタン以上の時短料理に仕上がった。
さらなる知恵はないかと、料理家の祐成陽子さんに聞くと「洋風のスープの味がアレンジで案外マッチするのはチヂミでしょう。つなぎに小麦粉を加えて、焼き上げればOK」と答えが返ってきた。
この発想を一歩進めればピザになるのでは。食パンやピザ生地に載せてもよいけれど、せっかくだからジャガイモ自体をピザ生地代わりに使おう。滑らないように用心しながらスライサーでジャガイモを薄切りにし、フライパンに敷き詰める。具のソーセージとニンジンを軽く切って上に並べ、トマトソースとチーズを載せて蒸し焼き。4分もかからずに「ポトフピザ」が完成した。
4歳の娘は他の料理だと残しがちなニンジンを完食した。野菜を食べてほしい親心に応える、大きな成果を得たのはうれしい。
うまみ出たスープ 中華や韓国風にも
牛かたまり肉からうまみの出たスープは、麺を入れれば、それだけでもおいしいはず。次は台湾旅行で味わった「牛肉麺」を頭に描く。肉を薄く切り、ゆでた中華麺と青菜を入れてポトフのスープを注ぐ。ミックススパイスの「五香粉」を振りかけると、もはやフランス料理の面影はない。ごま油やしょうゆなどを好みで加えるだけで十分だ。
冷蔵庫のキムチと豆腐をスープに入れて温め、肉と青菜を添える。麺はうどん。韓国風チゲうどんは「うまい、本格的な味」と辛い物好きの夫のお墨付き。これがポトフだったなんて、まったく気づいていない。
「熱々のご飯とだって合いますよ」と話すのはパパ料理研究家の滝村雅晴さんだ。ソーセージやジャガイモ、ニンジンの具を卵とじにして載せる。和洋兼ねたポトフ丼はお薦め通り、ハフハフと箸が進む。
最終形態は具材を影も形もなくしたポタージュ。ニンジンを小さく切って牛乳とスープを加え、ミキサーにかけてなめらかにしてから鍋で温める。ニンジンのポタージュを一から作ろうとは思わないが、途中からの作業ならハードルは下がる。オレンジ色が鮮やかで、食卓の彩りに使えそうだ。これはいい。
フランス語のウィキペディアを見ると「各地のポトフ」として日本のおでんが登場する。連日肉料理の試食が続いたので、次はおでんで試してみようかな。
思い出の味 まさかの再会
牛肉ポトフのジャガイモを口にしたとき、ひらめいた。思い出の「あの味」が再現できるかも――。5ミリメートルの厚さにスライスしボウルに入れ、刻んだタマネギとポトフのスープ、酢をかけて冷蔵庫へ。パセリを散らして完成だ。ドキドキしながら食べてみる。「この味だ!」。高校時代のホームステイ先でよく出てきた、南ドイツのポテトサラダ。さっぱりした味付けで、現地にあまたあるジャガイモ料理のなかでも特にお気に入りだった。こんな形で再会できるとは。料理の世界は奥が深い。
(南優子)
[日経プラスワン2016年12月3日付]
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