「ヒモトレ」でコリや痛みを軽く
軽く巻くだけ、体の連動促す
「ヒモトレ」という運動法について聞いたことがあるだろうか。ひもを体に巻き、軽く体を動かすだけで、体のバランスが整い、凝りや痛み、だるさが解消できるという。スポーツ界から医療や介護の場まで幅広く活用され始めた。ひも1本でどうしてつらい凝りなどが軽減するのだろう。注目のメソッドの仕組みを探ってみた。
ヒモトレは不思議な運動方法だ。手首や腹回りにひもを軽く巻くだけで、肩凝りや腰痛が取れて、体が軽くなるのだという。筆者は半信半疑で試してみたが、長年抱えていた肩や首の凝りが、ひもを巻いて原稿を書くようになってから、ずいぶん楽になった。この記事は、できれば手元にひもを用意し、実際に試しながら読んでほしい。
動きのクセ外す
まず、両腕を上げる動作から。普通、腕を前から上へ持ち上げていくと、両腕が顔の横に来たあたりで動きにくくなることが多い。ところが、輪にしたひもを両手首にかけ、軽く張りを持たせながら腕を上げてみてほしい。手が頭の後ろまですーっと進んでいく。
「手首にひもをかけると、腕と体の連動性が保たれ、余計な力みや凝りが消える」と話すのは、ヒモトレ発案者でバランストレーナーの小関勲氏。「腕を上げる動作は、腕や肩の筋肉だけの操作になりやすい。ところが、ひもをかけると、ひもが一種のガイド役になって脇腹や背中まで働きだす」と説明する。
次は、手首にひもをかけた状態で、体を左右に倒し、ねじってみよう。これもひも無しのときと比べると、動きが滑らかになり、全身が協調する心地よさがある。コツは、両腕をひもに任せる感じで、軽く張りを保つこと。これらの動きを繰り返すと、肩や首、腰の凝りや痛みが楽になる。

ひもを体に巻きつけるやり方もある。基本は腹回りに巻く方法。ついギュっと絞めたくなるが、なるべく緩めに巻くのがコツだ。ひもに触れた感触で体幹を取り巻く筋肉が安定して働き、立ち姿勢や重いものを持つ作業が楽にこなせる。背中や腰の凝りを和らげるのにも有効だ。
小池統合医療クリニック(東京・新宿)の小池弘人院長は、診療の中でヒモトレを使っている。「痛みが取れるなど、その場ですぐに効果が出るので、患者さんに喜ばれている」(小池院長)
小池院長は、ヒモトレの作用を「パターン化した体の動きのクセを外す効果があるのだろう」と考えている。
体を動かすときは、誰でもクセがある。例えば体をねじって後ろを振り返るような動作で、胴体全体が均一にねじれる人はほとんどいない。例えば「首ばかりねじれて腹はほとんど動かない」といったようなクセがある。この場合、首回りには負担がかかって凝りや痛みが生じやすく、腹回りは血行が落ちて冷えやむくみが現れやすい。
「こんな人が腹回りにひもを巻くと、ひもの触覚の刺激によって、無意識のうちに腹回りが動き始める」(小池院長)。クセから外れた体の動きを促進することで、全体のバランスが整い、首の凝りや腹の冷えが解消されていくという。

寝るときも有効
体の動きは、脳からの指令(運動神経)と、体からのフィードバック(感覚神経)の協調作用だ。「運動神経の作用が優位になりすぎて、動きのクセが生じる。ひもは、フィードバックの欠落を補い、脳と体のコミュニケーションを円滑にするのだろう」(小関氏)
ヒモトレは、高齢者の介護や、病気の子供たちが通う養護学校でも活用されている。嚥下(えんげ)障害の人がのみ込めるようになったり、脳性マヒでふらついていた子がしっかり歩けたりするという報告もある。
「こうした障害の中には、筋力などの能力はあるが、体の連動がうまくいかずに機能が落ちた場合がかなりあるようだ。ヒモトレで連動をサポートしてやれば、機能回復が望める」(小関氏)
スポーツ愛好者にもおすすめだ。ゴルフをする人なら、ひもを腹やお尻(図参照)に巻いたり、手首にかけた状態でスイング動作をしてみよう。動きが軽くなる感じをつかみやすくなる。
腹や尻に巻いておくと、階段の上り下りなどの日常動作もラクになる。着け心地が快適なら、一日中つけたままでも構わない。違和感を感じたら外すか、快適になるように調整をしよう。
寝るときに巻くのもおすすめだ。睡眠中に体のバランスが整い、目覚めが爽快になる。ゆるゆるに巻くのがコツだ。
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たすき、はちまき…日本古来のヒモトレ
小関氏は「日本人は古くから、ヒモトレを利用してきた」と話す。その代表は「たすき」。直接の目的は和服の袖をからげることだが、「たすきがけをすると、自然に背すじが伸びて動きやすくなる」(小関氏)。背中や肩にひもが触れることで、体の連動性が高まるのはヒモトレと同じ。
はちまきも同様だ。前傾しがちな頭部の位置がリセットされ、首や肩の凝りが軽くなる。「ひもの感触で、頭の位置を体が感知しやすくなるのだろう」(小関氏)。パソコン作業や読書など、うつむき姿勢が続くときにお勧めだ。コツは極力緩く巻くこと。「ひもを肌に触れさせる」と捉えるのがポイントだ。
(ライター 北村 昌陽)
[日経プラスワン2016年11月26日付]
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