子どもがダウン症 経験者・専門家の支援広がる
偏見減らす交流も
染色体の突然変異で、千人に一人の割合で生まれるとされるダウン症の子どもたち。子どもがダウン症と分かると、親は思わぬ事態に、これからどう育てていけばいいのか不安が募りがちだ。しかし、成長段階ごとに直面する課題や活用できる教育、福祉、医療制度などについて、適切な情報を得られれば、子どもに合う育て方を見つけやすい。ダウン症の子を育てた経験者や専門家らによる支援も広がっている。
「離乳食を丸のみしてしまいます。大丈夫でしょうか」。2日、神奈川県立こども医療センター(横浜市)はダウン症のグループ診療を開いた。1歳前後のダウン症の子を持つ15家族が医師や栄養士、遺伝カウンセラーらの話を聞いた。
成長に合わせ情報
同センターは年間40~50家族にグループ診療を実施。専門家の話の後、参加者が小集団で互いに話をし、専門家も適宜助言する。グループ診療について「同じ障害を持つ子どもを抱える親同士、悩みを打ち明けやすい」と同センターの黒沢健司遺伝科部長は話す。
ダウン症のある人は国内に5万~6万人とされる。遺伝ではなく誰にでも起こりうる染色体の突然変異の場合がほとんど。筋肉の緊張度が低く、知的な発達に遅れがあることが多く、心臓や消化器系など合併症を伴うことも少なくない。
心身ともに成長はゆっくりだが、医療技術が進み、50歳を過ぎても元気な人も多い。それだけに子の健康や教育、将来の暮らしなど、親の心配事はつきない。
「告げられた時、どうしていいのかわからなかった。情報がなく、ダウン症の子どもとの生活が想像できなかった」と話すのは、ダウン症の男児を育てる武田みどりさん(41)。昨年ダウン症の男児を出産した会社員の女性(36)は「情報を得ようとインターネットで検索すると否定的なものばかりが目につき不安感が増した」と話す。
子どもがダウン症と分かったら、適切な情報を得て、不安感を和らげるのが先決だ。「産婦人科や小児科で遺伝診療を手掛けるなど、ダウン症に関する専門スタッフのいる医療機関に相談を」と足立病院(京都市)の畑山博院長は助言する。医師だけでなく、遺伝カウンセラーやソーシャルワーカーらが相談にのってくれる。その後は神奈川県立こども医療センターのような医療機関から支援を受けるようにするといい。
医療機関だけでなく、ダウンン症の子を持つ家族の支援に取り組む団体の情報も役に立つ。公益財団法人日本ダウン症協会(東京・豊島)は、ダウン症のある子を持つベテランスタッフが相談に応じている。電話やファクス、メールで受け付ける。全国各地に委嘱相談員がおり、住んでいる地域の相談員を紹介する。必要に応じて医療や福祉の専門家ともつなぐ。
積極的な外出を
一般社団法人ヨコハマプロジェクト(横浜市、近藤寛子代表)は、ダウン症のある子どもや家族がどう生活しているかイメージしてもらえるよう、小冊子「ダウン症のあるくらし」を作製した。病院やクリニックなどで配布している。
冊子は乳幼児期から学齢期、成人になる過程で変わる生活をカラー写真で紹介。成長段階ごとに直面する課題や活用できる教育・福祉制度も解説する。「仕事を続けられるか」「周囲の人に説明すべきか」などの質問にも答えている。
重要なのは引きこもりに陥らないこと。必要な情報が入ってこなくなる恐れがあるからだ。畑山院長は「親の会へも参加した方がいい」という。地域の親の会は病院などで紹介している。子どもを公園や地域のイベントなどに積極的に連れ出すのもいい。「障害の無い子どもと一緒に生活することが十分可能だと実感でき、将来への不安が和らぐ」(畑山院長)。ダウン症のある人とない人が共に歩く米国発祥の「バディウォーク」が日本でも始まっている。
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新型出生前診断、関心高まる
高齢出産が増え、妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)への関心が高まっている。高齢になると胎児にダウン症などがある確率が高いとされるためだ。
NIPTは日本では2013年4月に臨床研究として開始。日本医学会が認定した全国の約70施設で約3万人が受診した。検査で陽性と判定された場合、家族は出産するかどうか重い選択を迫られることも。診断やダウン症への理解が不十分のまま検査だけが広がると「命の選別につながりかねない」と懸念する声も根強い。
ヨコハマプロジェクトの近藤代表は「検査を受ける前に、ダウン症児を育てるのにどんな支援があるかなどを知っておいてほしい。医療や教育、就労など幅広い情報が家族に届くことが欠かせない」と指摘する。関係機関が協力し、情報提供する体制づくりが急務だ。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2016年11月17日付]
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