ザ・会社改造 三枝匡著
プロ経営者が振り返る改革の道
本書はプロ経営者である著者の自伝であり、上場企業の社長に就いてから12年間にわたって自ら実行した「会社改造」、すなわち「改革の連鎖」を描いたノンフィクションである。
創業当時からユニークな経営で知られていた金型用部品、FA用部品の商社、「ミスミ」の経営を創業社長に託された著者は、創業社長のやり方を転換した新たな成長戦略、海外市場への進出、企業買収、生産改革、オペレーション改革といった改革を次々と戦略的に実行し、その結果、当時500億円だった売上高を2千億円超に成長させた。
これほどの短期間で事業が成長すれば、当然組織も急拡大する。一般に事業規模の急拡大と同時に効率的な組織を構築するのは非常に困難だとされるが、著者は経営者人材を徹底的に育成することでこの問題を解決していく。必ずしも全ての改革が順調に進んだわけではないが、時には共に悩み、部下を叱咤(しった)激励しながら改革に取り組むさまも赤裸々に描かれる。人材に見切りをつけて、より経験豊富な人材を雇えば問題解決はスピードアップするにもかかわらず、著者が学校の先生のように社員と接して育成しようとする点は非常に印象的である。
欧米ではプロの経営者が全く異なる業界をまたいで活躍するが、日本ではこうしたケースは少ない。そもそもプロの経営者自体が少ないからだろう。プロの経営者になるには、経営の仕事は独立した職業だと割り切り、キャリアの早い段階で様々な経験を積みながら技量を磨く必要がある。これには当然覚悟がいるが、実際に技量を磨くには経営の現場で様々な修羅場を経験する必要もある。
また、著者は、様々なフレームワークを用いて、戦略を策定し、問題を解決する。フレームワークとは物事の本質や構造を理解して、わかりやすく説明するための枠組みである。例えば、高い品質の商品が、どこよりも安く、最も短い時間で届くなら、他に特別の要素がない限り顧客はその商品を選ぶという考え方から、商品の強みは品質(Q)、コスト(C)、時間(T)で決定されるとして、QCTフレームワークを基に業務を着実に実行することを推進する。
経営学はフレームワークの学問である。複雑な経営上の問題を複数のフレームワークを用いて多面的に分析できるかどうかは、多くの研究者の問題意識でもある。この意味で本書は、経営学の教科書としても読むことができる。
(昭和女子大学教授 湯川 抗)
[日本経済新聞朝刊2016年11月13日付]
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