中高年、運動前はストレッチ ラジオ体操も効果的
昔やった競技こそ注意 ラジオ体操も効果的

健康のためと今秋からなにか運動を始めた人もおられるだろう。ところが、中高年になってからの運動は、肉離れやアキレス腱断裂などの思わぬケガにつながることも少なくない。若い頃やっていたからといって過信は禁物。トラブルを起こしやすい状況や、安全に運動するための留意点について専門家に聞いた。
日ごろの運動不足を解消しようとテニスを始めた高橋江美さん(43)。高校3年間はテニス部、大学ではスキーをしていたが、就職後は特に運動をしていなかった。「久しぶりなので体験レッスンに参加したところ、1時間後にアキレス腱を断裂。驚いた」と話す。
このように、高校生や大学生のころに経験したスポーツを再度始めた人のケガは多いという。「関節や軟骨、筋肉は加齢で弱っているのに、よく動けた当時の感覚が残っているために年齢相応を超えた動きをしてしまいやすい」と慶応義塾大学医学部スポーツ医学総合センター(東京都新宿区)の松本秀男教授は指摘する。
特にケガをしやすいのが40代以降。この傾向はどのスポーツにも当てはまる。テニスで多いのは、アキレス腱断裂や太ももやふくらはぎなどの肉離れ、膝関節の損傷。ゴルフでは肩の腱板断裂やいわゆるぎっくり腰(椎間ねんざ)などが多い。「30~40代女性では、バレーボールで膝の中心にある前十字じん帯の損傷や、足首のねんざが多い」と日本大学病院整形外科センター・スポーツ整形(東京・千代田)の洞口敬講師。
反動をつけず
トラブルを防ぐにはどうしたらよいのか。最も大切なのが運動前のストレッチだ。「ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることで急激な筋肉への負荷を抑えられ、関節の可動域も広がり動きやすくなる」と松本教授は説明する。
特に、肉離れを起こしやすい太ももやふくらはぎは、十分なストレッチが必要だ。ストレッチは、反動をつけずにゆっくりと伸ばす。筋肉が伸びていることを意識しながら、10秒程度その状態を保持するのがポイント。

「実は、準備運動として優れているのがラジオ体操」と松本教授。全国ラジオ体操連盟の青山敏彦理事長は「日ごろ使わない筋肉や関節などを満遍なく動かせるように作られている」という。運動の前後に実施したい。
徐々に動かし体全体を使うため負荷がかかりすぎない。血液の循環を良くし、体の柔軟性を高めてくれるという。ただ、誰もが知っているが「意外に正しく効果的なやり方を知らない人も多い」と青山理事長。
例えばラジオ体操第一の「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」。青山理事長は「ずっとかかとを地面につけたままの人もいるが、膝を曲げた瞬間だけかかとをつけ、それ以外はつま先立ち。それでふくらはぎの筋肉を十分に鍛えられる」(図参照)と話す。

また「体を横に曲げる運動」は、バストの横側を曲げることで脇腹の筋肉をストレッチできる。うっすら汗をかく程度だと、正しい方法でできた証しだ。
また、運動中のこむら返りなどの筋肉のけいれんを防ぐには、運動前、運動中、運動後、こまめに水分をとるようにする。夏だけでなく冬でも意識する。
運動後もケアを
運動による関節などへの負担を軽減するには、筋力をある程度つけておく必要もある。ただ、いきなり高負荷のトレーニングは難しい。関節に痛みがあるような場合には「静的トレーニング(アイソメトリック)が効果的」と松本教授。
アイソメトリックとは、関節を動かさず、筋肉だけを収縮させる筋トレ法のことをいう。壁や床を利用して鍛えたい筋肉に力を入れたり、自分の両手を合わせて力を入れて押しあったりする方法だ。
一方、「足首のねんざなどを防ぐには、座って床にかかとをつけた状態でつま先を上げ下げしたり、立ってかかとを上げ下げしたりし、足首回りの筋力をアップさせるといい」と洞口講師。筋力の衰えた中高年でも、問題なく取り入れることが可能だという。
運動前に体を温めるなどケアをする人は多いが、運動後のケアは忘れがち。運動後のストレッチは筋肉痛を軽減する。また「マラソンなど膝に大きな負担がかかる運動後は、痛みがなくても氷のうをあてて20分程度冷やす。ただし、冷やすのは直後だけ。普段はお風呂などで温めるとよい」(洞口講師)と助言する。
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競争心にあおられない
スポーツの思わぬ落とし穴が「運動のしすぎ」だ。特に多いのがランニングやマラソン、ジムのウエートトレーニング。ランニングでは、骨盤からスネの外側までのじん帯と膝の外側の骨がすれて炎症を起こすランナー膝になりやすい。疲労骨折を起こすこともある。ウエートトレーニングでは重りが重すぎたり、頻度が多すぎたりで、大胸筋が肉離れすることも。
「マラソンやウエートトレーニングでは、ついつい競争心をあおられ過度に運動しがち。無理の無いトレーニング計画を」と洞口講師。運動量は徐々に増やすことが大切。「過剰な運動はかえって体の負担になる」と警鐘を鳴らしている。
(ライター 武田 京子)
[日経プラスワン2016年11月12日付]
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