アフリカ 希望の大陸 ダヨ・オロパデ著
分厚い情報で描く発展の潜在力
アフリカは貧しい。施しを待つ哀れな人々が暮らしている大陸だ。本書は、このような固定観念を吹き飛ばしてくれる好著である。
著者は米国で生まれ、エール大学で学び、アフリカ大陸を精力的に取材してきた若きジャーナリストである。両親はナイジェリアからの移民。おばあちゃんの村への里帰りも取材の一部だ。アフリカを内部から見る温かい目と、外からの鋭い観察眼がほどよく混じり合い、議論に奥行きを与えている。
アフリカでは、国家の失敗は市場の機会を意味する。国家が機能していないからこそ、地元の人々は生き残りのために工夫をこらし、そこから巨大なビジネスチャンスが生まれるのだ。逆境のもとで育つアフリカの民間セクターは、世界一しぶといとも言えるだろう。
本書は、アフリカの経済発展のダイナミックな潜在力を、家族、テクノロジー、商業、自然、若さという五つの視点から描き出そうとする。
国家が弱い分だけ、アフリカでは拡大家族の助け合いの精神が強い。この親密な情報共有と社会保障、投資のネットワークは、ときに国境を越え、大胆なイノベーションを伝播(でんぱ)する。
アフリカ人を広域的につなげるのが、携帯電話を含むITネットワークである。とりわけ電子マネーの普及には驚かされる。公共財部門を含め、あらゆる分野に起業家たちがいる。問題は、事業を本格化させる中規模な融資が足りないことだ。
アフリカの自然資源としては、地下資源に加えて、発電に使える太陽光も重要だ。この大陸の持続的な発展の鍵は農業セクターにある。人口構成を見ると、アフリカ人は世界一若い。若者の独立心を育てる実学的な教育が多方面で進んでいる。マンガ、ラジオなどを使った放課後教育にも才能が集まる。
著者は議論の中で、想像力豊かなキーワードをめまぐるしく提示する。少々理屈っぽいところもあるが、分厚い情報を満載してぐいぐいと押してくる迫力には、正直、圧倒された。本書には、アフリカ関係者の間ではよく知られた「ナイジェリア的」な濃いエネルギーが充満しているように思える。
来日してビジネススクールで学んだり、企業研修に参加したりするアフリカ人の若者も増えてきたようだ。上から目線の援助はもういらない。それよりも対等なパートナーとしてアフリカの「人」に投資すべしという本書のメッセージを、正面から受け止めたい。
(同志社大学教授 峯 陽一)
[日本経済新聞朝刊2016年11月6日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。