パナマ文書 B・オーバーマイヤー、F・オーバーマイヤー著
倫理なき経済の実態 暴いた記録
2016年4月、パナマ文書が暴いたオフショア世界の闇。深い闇をたどった先に現れる意外な人物、巨額の富。まるで映画の世界だが、これは現実の世界。パナマなどタックスヘイブンを舞台に、巨額の蓄財を隠そうとする多彩な登場人物が暗躍する、非合法な脱税システムの世界である。
本書は、正体不明の告発者がパナマの法律事務所内部の生データを南ドイツ新聞にリークしたところから、そのドキュメンタリーが始まる。リアルタイムで絶え間なく送られてくる、巨大なデータを多くのジャーナリストたちが分析し、発表に至るプロセスが、時間の経過に合わせて生々しく記述されている。
本書では、「悪の法律事務所」を中心とする闇のビジネスモデルの全容が、章を追い、分析が進むにつれて、次第に解き明かされていく。世界の政治家、犯罪者、富裕層、セレブたちがタックスヘイブンのペーパーカンパニーを駆使し、姿が見えないように、非合法に蓄財、租税回避、マネーロンダリングしているという驚くべき現実。
各章ごとに新たに登場してくる意外な人物たち。その真の所有者を隠すために、法律事務所が数多くのペーパーカンパニーを設立し、無記名株を発行、名義上だけの所有者、取締役が表に立つという複雑な仕組みも同時に明らかになっていく。本書が最終的に示す複雑・多様な全貌は想像以上のものである。
こうして、80カ国以上、約400人のジャーナリストがデータを1年以上にわたって分析した結果がウェブに掲載されている。驚くべきことに、多くの国のリーダーたちが、国内の混乱をよそに裏でせっせと蓄財に励んでいる。コンプライアンスを順守すべき法律事務所がその中心に位置し、その事務所への「危ない」顧客の紹介に、信用を守るべき銀行自身が関与しているケースがある。表の顔と異なる裏の顔の使い分けである。
倫理なき経済の実態を暴き出した歴史的な意義は大きい。現に、本文書の発表により、現職の首相が辞任に追い込まれるなど、国際政治は大きく揺さぶられている。
告発の背景には、貧者と富者の富の格差など、民主主義の存立への懸念がある。リークの告発者、ジャーナリストには大きなリスクが伴う。そのリスクをあえて負う危機感がひしひしと伝わってくる。タックスヘイブンの闇を最終的に解消できるのか。ジャーナリストの告発に続く訴追は可能なのか、など残された課題は重い。
(専修大学教授 徳田 賢二)
[日本経済新聞朝刊2016年10月23日付]
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