衝動買いの誘惑 勝つには
食品や洋服など、買い物に行くとつい予定外のものまで買ってしまいます。心の中では予算を設定しているのですが。どうすれば無駄遣いがなくなるのでしょうか。
店の戦略に乗せられない
不要な物を買ったり、予算を超過したり。つい予定外の買い物をしてしまうのはなぜか。専修大学の徳田賢二教授は「買い物は売り手と買い手のゲームのようなもの。売り手の戦略にはまることが一因」と説明する。
特に食品や日用品を売るスーパーには、人間の心理を利用した仕掛けが満載だ。「スーパーの買い物客の6、7割が予定外のものを買っていたという調査もある」と徳田さん。ただし「一般的なスーパーの仕掛けは共通」といい、手の内を知れば無駄遣いを抑えられるかもしれない。
まず、入り口には特売品を置いていることが多い。これは客の買い物スイッチを入れ、頭で考えずに手を出す「衝動買い」の気持ちに切り替えさせるためだ。
客が長時間店にいれば、その分より多くの商品を買う可能性がある。そこで店の奥へ奥へと誘う。多くのスーパーが入り口から出口までを野菜、魚、肉と回る順路にしているのは、価格帯が高くなるのに慣れさせるため。購入頻度が高い卵や豆腐、牛乳の売り場を離すのもそのためで、「ロンドンでも牛乳が一番奥だった」(徳田さん)。
通路の奥や突き当たりは買い物を続けさせるための要所。格安の調味料などハッと思わせるお得感の高い商品を置き、買い物心を刺激する。レジの前には百円前後の菓子などを並べ、商品を選び終えて生じる心の隙間に「もう一品どう?」と誘いかける。
そのほか、特売品の周りに定額の関連商品を置いたり、右回りの順路で商品を手に取りやすくしたり。子どもの目の高さにキャラクターのお菓子を並べたり。「何が狙いなのか」を冷静に考えると、スイッチを切れそうだ。
コーヒー1杯で考え直して
つい手が伸びる予定外の買い物をどう減らせばいいか。家計や買い物事情に詳しい3人の専門家に「脱無駄遣い」の秘訣を聞いた。
全員が口をそろえるのは、予算管理。ファイナンシャルプランナー(FP)の井戸美枝さんと消費生活アドバイザーの和田由貴さんは一週間の食費を決め、生協の宅配やネットスーパーなどでまとめ買いをしている。
ネット注文なら画面上で計算し、予算管理がしやすい。井戸さんは「カード決済して翌月の明細で確認し、余分な買い物があれば反省して次はやめる」。和田さんは「調味料など残りを確認しながら注文できるので余計に買わなくなった」。さらには「例えば予算を月4万円として、3万円を毎週食べきる食材に、1万円をコメなど週を持ち越す食材に当てたら予算内に収まるようになった」という。
手軽に物が買える電子マネーにも予算管理が必要だ。FPの山崎俊輔さんは残額が一定額を切ると自動的に入金するオートチャージ機能を使わない。自分でチャージすることで「お金を使っているという感覚を持つ」という。
「買う前に一度考える」点も一致した。山崎さんはレジの前で買わなくていいものがないか、見直す。さらに1万円超の服は一度店を出てから決める。服を買うときは店員の声に左右されやすいが「その瞬間は欲しくても、1回しか着ないならいらない。コーヒー1杯で冷静になれるなら安い出費」(山崎さん)。
しっかり決めてから店に入るのも一案だ。和田さんは服を買う前に雑誌などを見てイメージを持ち、店を回る。すると「何回使うか、他の店にないかなどを考えるようになり、即決しない」。井戸さんも「すでに自分に似合う服の形を知っている」ため、目移りしないという。
井戸さんと和田さんはバーゲンには行かないという。「安いことを理由にした買い物はしない」(和田さん)。安いから買うのではなく本当に必要だから買うという姿勢で、値引きの誘惑に負けないように予防線を張る方法だ。
ただ、予定外の買い物がいつも失敗というわけではない。普段と違う商品を見つける喜びもある。楽しみながら、自分に合った買い物ルールを探そう。
(畑中麻里)
[日経プラスワン2016年10月15日付]
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