睡眠不足がメタボ招く 寝だめ逆効果、リズムが大切
1日7時間目安に 食事も規則正しく
そもそも日本人はどれぐらい睡眠を取っているのか。総務省の2011年社会生活基本調査によると1日平均7時間42分。最も短い45~49歳も7時間3分とっている。
もちろん、忙しくてそんなに寝ていられないという人は多いだろう。睡眠には個人差があり、必ずしも何時間寝ないといけないというわけでもない。とはいえ、「毎日一定の時間帯で7時間前後寝るのが理想」(睡眠総合ケアクリニック代々木の井上雄一理事長)だ。
肥満や糖尿病に
睡眠時間が短くなると「心臓や血管の病気、メタボなどになりやすい」と指摘するのは大分大学医学部公衆衛生・疫学講座の兼板佳孝教授。地域や職場の健診データを分析した調査で、睡眠時間が5時間未満の人は、5時間以上の人に比べて血糖値が高く、肥満になりやすいことが分かった。
なぜ睡眠不足が肥満や糖尿病につながるのか。カギはホルモンだ。「睡眠不足が続くと、食欲を高めるグレリンが胃から多く出る一方、食欲を抑えるレプチンは減少する」(井上理事長)。その結果、過食に走りやすくなるという。
また、血糖値を下げるインスリンがうまく働かなかったり、副腎皮質から出て血糖値を上げるコルチゾールが増えたりする。すると血糖値が高い状態が続き、糖尿病になりやすくなる。
さらに自律神経、とりわけ血圧を上げる方向に働く交感神経の働きが強くなる。その結果、高血圧を招くこともある。
そもそも、睡眠不足が体内リズムの悪循環を招くことも意識しておきたい。朝日をあびて目が覚めてから、約15、16時間後に眠気が生じるのが、標準的な人の体内リズム。夜更かししてリズムを崩せば、深夜に空腹を感じることもある。何か食べれば体温が上がり、深い眠りの妨げになる。こうして睡眠不足が助長され、ホルモンのバランスも崩れていく。
まとめて眠れば睡眠不足を解消できると考えるのも早計だ。たとえば夜更かしし、休日に寝だめをする方法は、一気に体内時計が遅れ、深夜の食事で肥満になりやすい。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部の三島和夫部長は「寝だめではなく、毎日少しずつ睡眠不足を解消するようにしてほしい」とアドバイスする。
日中に軽い運動
では、睡眠不足とメタボの悪循環を断つにはどうすればよいか。基本は「起床時間と就寝時間を一定にし、7時間前後の睡眠と日中に汗ばむ程度の運動をすること」と三島部長は話す。
食事の取り方にもコツがある。井上理事長は「朝食にタンパク質などをしっかり食べ、夕食にいくにつれ徐々に減らす」のが理想という。女子栄養大学栄養クリニックの蒲池桂子教授も「タンパク質は、体に朝が来たと認識させるのに必要な物質を作るもと。必ず朝、食べてほしい」と話す。睡眠を促すメラトニンの分泌にも役立つという。
たとえば、ご飯にみそ汁、目玉焼きとハム、焼き魚、サラダやおひたしなどの小鉢を加えた塩分控えめの献立は朝食に最適だ。タンパク質が働くためには炭水化物やビタミン、ミネラルも不可欠。ご飯など炭水化物を抜かず、野菜も一緒に取る。白米に玄米や雑穀を混ぜると手軽にミネラルも摂取できる。
昼食は活動量の多い時間帯なので、多少カロリーが高めでもよい。夕食は「かつおぶしやにぼし、こんぶ、きのこや肉などを使ってうま味を引き出すと満足感を得やすい。脂質と塩分を控え、炭水化物やタンパク質などをバランスよくとりたい」(蒲池教授)。
食べる時間も意識しておきたい。夕食は朝食から12時間以内に取るのが理想。午前7時半に朝食をとる人は、夕食は午後7時半までにとることになる。昼食はその中間で午後2時までに取ろう。このリズムなら、眠くなる3、4時間前には食事を終えられる。
注意してほしいのは寝酒。寝付きを良くしようと飲む人がいるが、アルコール類は「眠りを浅くし、中途覚醒が増える作用がある」(三島部長)。良質の睡眠をとるためには、ほどほどにしよう。
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睡眠時無呼吸症候群の可能性
早寝を心掛け、よく寝たつもりなのに疲れが抜けない。もし、肥満の人で首回りがぽっちゃりしているなら、睡眠時無呼吸症候群かもしれない。寝ているときに呼吸が止まってしまう病気で10秒以上呼吸が止まっている状態が1時間に5回以上ある場合をいう。
たびたび呼吸が止まってしまうことで脳や身体に大きな負担がかかり、寝不足状態となる。すると、生活習慣病をさらに悪化させてしまうことになりかねない。食事や生活習慣の是正に努めても治らないなら医療機関の受診を。「CPAP(シーパップ)治療法」と呼ぶ、鼻マスクを着けて圧力を送り、睡眠中の気道を広げる方法もある。
(ライター 高谷 治美)
[日経プラスワン2016年10月15日付]
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