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訪日外国人が日本でたくさん買い物をする「爆買い」が減り始めたと聞いたわ。中国からの観光客は相変わらず多いみたいだけど、何が起きているのかな。

訪日外国人の『爆買い』をテーマに、岡沢昌代さん(64)と中島明日香さん(29)が石鍋仁美編集委員の話を聞いた。

 爆買いは減っているのですか?

「観光庁が7月に発表した4~6月の訪日外国人1人当たりの消費額は15万9930円と、前年同期に比べて9.9%減りました。前年同期比でマイナスになったのは2四半期連続です。訪日外国人の人数は依然として増えているため、全体の消費額は7.2%増とプラスを維持しましたが、変調が鮮明になっています」

「なかでも、爆買いの主役だった中国からの観光客の消費が慎重になっています。日本政府観光局によると、2015年の訪日外国人約1974万人のうち、中国人(台湾・香港を除く)は499万人で全体の25.3%です。ところが消費額のシェアをみると中国人が実に40.8%を占めていました。その訪日中国人の今年4~6月の1人当たり消費額は21万9996円で、前年同期に比べ22.9%も減っています」

「訪日中国人の1人当たり消費額が減っているのは、いくつか理由があります。一つは、中国景気の減速です。円高で日本での買い物が割高になったこともあります。さらに、以前は比較的裕福な中国人が日本に旅行していたのに対して、日本の入国ビザ発給要件の緩和などに伴って、それほど所得が高くない訪日客の割合が高くなったことも影響しています」

 消費の内容にも変化があるのですか。

「中国人訪日客が増え始めた最初のころは、富裕層が超高額な宝飾品などを買っていました。その次に『中の上』の所得階層の訪日客が増えると、炊飯器や時計などをたくさん買うようになりました。その中には、自分で使ったりお土産にしたりするだけでなく、中国に持ち帰って転売して稼ぐことを目的にした買い物もあったようです」

「今ではごく普通の人々が、ドラッグストアなどで薬や日用品を買っています。中国でも海外旅行の大衆化が進んだ結果、高額商品から普通のモノに関心が移っています。とはいえ、日本製品なら何でも売れるというわけではなく、インターネットで影響力のあるブログなどでお薦めされている特定の商品に人気が集中しています」

「もともと欧米からの観光客は買い物よりも、ホテルや旅館、様々なサービスにお金を使う傾向がありましたが、最近は中国や東南アジアからの観光客もモノから『コト消費』、つまり日本ならではの体験へと関心がシフトしています。温泉や雪景色などに加え『忍者体験』のようなサービスも人気があります。何度も日本に来るリピーターが増えれば、こうした傾向はますます強まるでしょう。訪日客を受け入れる日本側も発想を切り替える必要がありそうです」

 日本企業はどう対応しようとしているのですか。

「物販については『越境Eコマース』に取り組む企業が増えています。一度、日本に来て買い物をしてもらったお客さんには、母国に帰った後もネット通販を通じて日本の商品を買い続けてもらおうというわけです」

「コト消費については、観光メニューの一層の強化が欠かせません。特に地方の企業や自治体にとっては、まだまだ訪日客の増加の恩恵を受けていないところが多いのが実情です。買い物客を集めるのは大都市の有名店や巨大店のほうが有利ですが、日本ならではの体験なら、地方にも優れた素材がたくさんあります」

 政府はもっと訪日外国人を増やす目標を掲げているようですね。

「今年3月に政府が新たに掲げた目標は、20年に現在の2倍の4000万人、30年に3倍の6000万人です。さらに30年の消費額は15年の4倍という、かなり高い目標です。一般家庭に観光客を泊める民泊の規制緩和など、様々な政策対応が必要になります」

「現在は国・地域別で上位4位までの中国、韓国、台湾、香港からの訪日客が全体の7割以上を占めています。中国と韓国からの訪日客は、日本と両国の関係が悪化すると大幅に減るという問題もあります。安定して訪日客を増やすには、東南アジアなどからの観光客誘致にもっと力を入れることも必要でしょう」

ちょっとウンチク


文化の厚み 説明が不可欠
 徳島県三好市の山あい、祖谷地区を旅する外国人が増えている。かやぶき屋根の古民家9棟が宿に改修され宿泊できるからだ。昔ながらの風景と伝統的生活。五感で日本に浸れる空間が滞在者を引きつける。パリやロンドンなどと同様に多少の為替の変動はもう関係ない。仕掛け人は米国人のアレックス・カー氏。外の目が地域の埋もれた良さを発見した好例だ。
 マーケティングの世界に「安さで得たシェアは、安さで奪われる」という鉄則がある。円安というバーゲンセールで来店した客の心は、いずれもっと割安な国や地域に移っていく。固定客になってもらう決め手は、どこでも買えるモノではなく、ここでしか味わえない体験であり、文化の厚みだ。
 美術品から生活体験まで、文化を深く理解してもらうには言葉による説明が不可欠だ。政府は文化財などの解説文を多言語化すると同時に、日本史の知識が乏しい人にも理解できる内容に改める方針を決めた。こうした地道な取り組みの積み重ねが長期目標の成否を決める。
(編集委員 石鍋仁美)

今回のニッキィ


岡沢 昌代さん 主婦。夫と2人で国内外のあちこちへ旅行を楽しんでいる。「今年4月には念願だったカリブ海クルーズの旅を1週間楽しむことができました」
中島 明日香さん 製薬会社勤務。営業の仕事をする女性のコミュニティー「営業部女子課」に参加している。「営業女子の活躍で、より輝く社会を目指しています」
[日本経済新聞夕刊2016年9月26日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は10月10日の予定です。

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