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幽霊とは何か ロジャー・クラーク著 時代によって変わる姿や行動

2016/9/11付 日本経済新聞 朝刊

 幽霊を見たことはあるだろうか。などと言ったら、なにを馬鹿(ばか)なとお叱りを受けるかもしれない。だが、いるにせよいないにせよ、これまで多くの人が幽霊を見たと報告してきたのもまた事実。では、人が幽霊を見るとき、実際には何を見ているのか。これが本書の関心である。

(桐谷知未訳、国書刊行会・3700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 映画評論を生業とする著者は大の幽霊好きらしい。子どもの頃から幽霊に惹(ひ)かれ、本を読みあさるだけでなく、名だたるゴーストハンターと交流し、14歳で心霊現象研究協会にも名を連ねたというから筋金入りだ。

 とくれば、イギリスを中心としてこの500年ほどの幽霊目撃談を集めに集めた本書は、さだめし幽霊寄りに書かれていると思われるかもしれない。たしかに資料の博捜に基づく数々のエピソードは、思い入れもたっぷりに見てきたような書きぶりだ。この古今幽霊物語集という側面は、本書第一の魅力である。

 しかし他方で面白いことに著者は存外、冷静で公平でもある。本書に綴(つづ)られる事件では、幽霊屋敷を典型的な舞台として、幽霊を見た者、疑う者、ゴーストハンター、霊媒師、宗教家、科学者などなど、多彩な顔ぶれが登場する。果たして本当に幽霊はいたのかどうか、真相が分からないまま終わる事件もあるが、中にはポルターガイストの正体がバレたり、インチキを暴かれたりした例も少なくない。

 本書の随所で提示される問いもどちらかといえば幽霊の存在をいぶかしむ立場のものだ。例えば、幽霊が死者の魂だとしたらなぜ服を着ているのか(服には魂がないのに!)。着ている服がたいてい現代風なのはどうしてか。人が知り合いの幽霊を見やすいのはなぜか。そもそも時代によって幽霊の姿や行動が変わるのはどういうことか。近頃の幽霊は、パソコンや携帯電話を通じて交信を試みるなど、技術動向もしっかりフォローしているというではないか!

 著者によれば、どうやら幽霊のあり方は、その時代の社会、宗教、メディアといった要素に影響されるようだ。これらは時と共に変わるものだけに、それに応じて誰がどんな幽霊を見るのかも変わるわけである。なるほど、数百年という幅のなかで幽霊を追跡してみせる本書ならではの面目躍如たる指摘だ。

 では、幽霊を見るとき、人は何を見ているのだろうか。超常現象か、はたまた脳が見せる幻影か。そういえば、ゴーストの語源であるドイツ語のガイストには幽霊の他に人間の精神という意味があった。問われているのはむしろこれかもしれない。

(文筆家・ゲーム作家 山本 貴光)

[日本経済新聞朝刊2016年9月11日付]

幽霊とは何か──500年の歴史から探るその正体

著者 : ロジャー・クラーク
出版 : 国書刊行会
価格 : 3,996円 (税込み)

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