会いに行ける棋士
将棋・囲碁まつり復活、ファン拡大
夏の風物詩といわれたデパートなどの将棋・囲碁まつり。休止が相次いだが、近年、復活の兆しをみせる。子供大会や公開対局のほか、オークションなどメニューも多彩になっている。
「次のオークションは羽生さん出品の扇子。はいっ、1000円から」。司会の木村一基八段の合図で、次々に将棋ファンが手を挙げる。「1万円」「2万円」――。羽生善治王座(王位・棋聖)愛用の扇子が競り合いの末、6万円で落札されると、熱気に包まれた会場にどよめきが広がり、大きな拍手がわいた。
今月6日、東京・渋谷の東急百貨店東横店8階にある催事場。50回目を迎えた「東急将棋まつり」の初日は、立ち見も出る人だかりでにぎわった。チャリティーオークションでは、羽生王座や郷田真隆王将ら人気棋士が登場。ネクタイやシャツ、メガネなど身の回りの愛用品を提供した。
壇上では軽妙なトークも飛び交い、来場者はお気に入りの棋士を身近に感じられると大喜び。4日間の期間中には、ファンの前でプロ棋士が真剣勝負する「席上対局」やファン向けの指導対局、子供将棋大会などおなじみのイベントが開かれ、オークションは新たな試みとして催された。
子供大会や撮影会
将棋まつりは、夏休みに親子連れで参加しやすいイベントとして全国各地の百貨店で開催され、普及に大きな役割を果たしてきた。羽生王座が小学生の時、森内俊之九段ら将来のライバルと初めて対局したのも将棋まつりの子供大会だ。
ただ、バブル崩壊後の長引く不況を受けて休止が相次いだ。しかし、近年では、インターネットによる対局中継などで関心を持った「見る将棋ファン」が増加。棋士と身近に交流できる将棋まつりの集客力が見直され、家電量販店や住宅展示場などでも開かれるようになった。イケメン男性棋士や若手女流棋士とのツーショット写真が撮れる撮影会など新たな企画も目立つ。
棋士自ら企画した将棋まつりも始まる。9月10~11日、大阪・梅田で開かれる第1回の「関西将棋夏まつり」だ。席上対局や指導対局、サイン会を予定し、谷川浩司九段らが登場する2日目の入場券は発売当日に売り切れた。
企画の中心となる日本将棋連盟棋士会副会長の久保利明九段は「大阪では40年近く続いた百貨店の将棋まつりが数年前になくなり、さみしい思いをしていた。準備は想像以上に大変だが、毎年続く恒例行事にしたい」と意気込む。
こうした催しを普及に役立てようと躍起になるのは囲碁界も同じだ。七冠独占を今春達成した井山裕太王座は今月15日、東京・新橋のホテルで開かれた第3回の「阪急納涼囲碁まつりin東京」でファンの手が届くところで公開対局。前年を上回る観客が詰めかけ、トッププロが醸し出す緊迫感にファンは息をのんだ。
国際交流の場に
参加した約30人の棋士は、公開対局や指導対局の合間に、気軽にサインや記念撮影にも応じた。井山王座は「小1の時、大阪の囲碁まつりでスター棋士に会ってワクワクした記憶が鮮明に残っている。今の子供たちも同じように喜んでくれるとうれしい」と話す。
今年7月には兵庫県宝塚市で「ジャパン碁コングレス2016」が開かれた。碁コングレスは欧州発祥の「碁の祭典」で、関西棋院などが初の日本版を企画。米グーグルの囲碁人工知能(AI)「アルファ碁」の開発メンバーの研究発表も催した。欧米やアジアの愛好家が集った大会は国際交流の場にもなった。
新たな趣向を凝らした将棋・囲碁まつりは、ファンの裾野拡大につながると期待される。さらに、イベントに引っ張りだこの羽生王座は「何度も来場してくださるファンの顔は覚える。応援されていると実感できる」と話し、ファンとの交流の場は棋士にとっても大きな励みになっている。
(文化部 山川公生)
[日本経済新聞夕刊2016年8月23日付]
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