桃井かおりさん できること、増えている
ロサンゼルスに拠点を移して10年。かの地で中村文則原作「火 Hee」(公開中)を監督、主演した。長編の監督は「無花果の顔」以来10年ぶり2作目。
挑戦的な映画だ。幼い頃に火事で両親を亡くした売春婦(桃井)が、ある容疑のため精神鑑定を受ける。女は精神科医の前で過去を延々としゃべり続ける。
「医師はろくに聞いていないのに、人とつながることを信じてる女、言葉を諦めない女。その体温を感じさせたかった」
桃井の語りはリハーサルなしの一発勝負で撮った。「相手役にもスタッフにも1度もセリフを聞かせてない。アドリブもあるし、いつ終わるかわからない」。現場の緊張が画面の緊張を生んでいる。
女の話が本当か嘘か、病んでいるのかいないのかは「観客に委ねられてる」。ただ「自分の中でたまっていた怖い思いを実感してほしい」。日本から伝わる少年殺しや老人殺しの容疑者の「痛みを感じていない、あまりに日常的なセリフ」。それをこの女のセリフにも感じた。
50代半ばに「定年のつもりで」米国移住。でも「活気づいてるのよ」と笑う。
父の死を機に初めて親元を離れた。「桃井かおり風の仕事をやめ、実体ある生活をしたかった」。審査員として呼ばれた映画祭などで世界の若い監督たちと知り合い、インディーズ作品に積極的に出た。
「優秀な人とやってる。青田買いね」。金がない現場なので時に衣装は持ち込み、時に出資もする。でもそんな自由奔放さこそ、この女優の真骨頂だ。
65歳。「欲をかく歳じゃないし、自分の重さも抱えてる。足腰も痛くなってる。でも、できるようになったこともあるのよ。どんどんやれることが増えている」(ももい・かおり=女優)
[日本経済新聞夕刊2016年8月22日付]
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