ボカロが歌う歴史… 娯楽とコラボした参考書、ヒット
中学生に人気のボーカロイド(歌声合成ソフト)楽曲やライトノベルを組み合わせた学習参考書が人気だ。親しみのあるコンテンツとのコラボレーションで、やる気を引き出している。
「♪鎖国の完成 黒船ペリー 開国要求 聞コエナイヨ 大政奉還 1(ひと)8(は)6(む)7(なし) さあ明治政府を 打ち立てろ~」
ボーカロイドの人気キャラクター「初音ミク」の電子的な歌声がアップテンポな曲に乗りスマートフォン(スマホ)から流れる。画面には赤い「鎖国」の文字。続いて、日本に開国を迫った米国の提督ペリーの似顔絵が映る。これが、ボカロ楽曲の「千本桜 日本の歴史ver.」だ。
暗記と好相性
学研プラスが5月に刊行した「ボカロで覚える 中学歴史」は、ボカロ音楽に乗って勉強できる異色の参考書だ。スマホにアプリをダウンロードし、本に載ったデータを読み込むと映像が流れる。ヒット曲の替え歌「千本桜」を含め計10曲を収録。重要語句を盛り込み、歌を覚える感覚でおのずと歴史の流れが学べる仕組み。本には詳しい説明や歌詞の穴埋め問題も付く。
「今の中学生の娯楽はスマホでボカロなどの動画を見ること。時代にフィットしたものを作りたかった。ボカロは難しい言葉を早口で呪文のように唱えるので、暗記科目と親和性は高い。重要語句は外さず、ふざけるところはとことんふざけた」。編集担当の八巻明日香氏はこう話す。
読者からは「大好きなボカロで勉強できるなんて夢のよう」といった声も寄せられた。年間1万部売れれば好調とされる学参分野で、理科と併せたシリーズは発行35万部を超える。
「週刊少年ジャンプ」に連載した松井優征氏の人気漫画「暗殺教室」(集英社)と組んだ「殺(ころ)たん」シリーズは、英単語帳のほか、英文法や熟語など計4冊で48万部に上る。「暗殺教室」は成績不良の生徒を集めた中学校のクラスが舞台。「殺せんせー」と呼ばれる担任は、地球を破壊するほどの力を持つ危険な生物という設定だ。
「殺せんせーの指導は親身でわかりやすい。それを学参で再現したかった」と漫画編集の村越周氏。英語の専門家の協力も得て、東京大学出身で20代の村越氏が自ら編集を手がけた。
「せんせーとタコの違い」など漫画のファンが喜びそうな例文や、松井氏書き下ろしのイラストも盛り込み、帯には著名な翻訳家、柴田元幸氏の推薦文も付けた。「学校の授業よりわかりやすい」「全教科作ってほしい」と読者からの反響も大きいという。
編集者は20代
人気ライトノベル(ラノベ)と組み合わせたのは、「『カゲロウデイズ』で中学英単語が面白いほど覚えられる本」(KADOKAWA)だ。「英文法」や「数学」、さらに9月刊行予定の「歴史」を合わせたシリーズ7作の発行部数は27万部になる。
例えば「中学英単語」はキャラクターのセリフとして例文を紹介している。「細部まで徹底して小説に準じ、原作の世界にどっぷり浸れる『読みたくなる』参考書にしたかった」と担当編集の黒田光穂氏。同社は2009年に学参を手がける中経出版を子会社化。両社のコンテンツを合わせた学参を作れるようになった。
堅いイメージの学参が大きく変わるきっかけをつくったのが、アニメ調のキャラクターを用い、03年に刊行された「萌(も)える英単語 もえたん」(三才ブックス)といわれる。近年では、中学生向けに漫画やラノベと組み合わせた「コラボ学参」の刊行が相次ぐ。女子中学生に人気のファッションブランドとタイアップした学研教育出版編「セシルマクビースタディコレクション」といった学参も登場した。
こうした学参は主に20代後半の編集者が企画した。若い感覚を生かし、「もっと楽しく勉強できたらいいのに」と思う子どもたちの心に寄り添ったのがヒットの一因のようだ。
(文化部 佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2016年8月16日付]
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