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深夜公演・映画館… 二ツ目奮闘、落語ファンを開拓

2016/8/8付 日本経済新聞 夕刊

花形演芸会で新作「罪と罰」を披露する昔昔亭A太郎(東京・国立演芸場)

 東京の落語界で、若い「二ツ目」が人気拡大のけん引役になっている。小規模な公演で腕を磨き、ネットや交流サイトを使った集客で新たなファン層も開拓。落語ブームの一翼を担う。

土曜夜の「深夜寄席」には若い女性客も多い(7月23日、東京都新宿区の末広亭)

 毎週土曜の夜になると、新宿末広亭前に数十メートルに延びる行列ができる。午後9時半開演の「深夜寄席」を待つ人の列だ。落語・講談の二ツ目による会で、7月23日には人気講談師の神田松之丞らを目当てにした若い女性が詰め掛けた。

 同会は若手の勉強の場として1971年に始まった。当初は30~50人程度しか入っていなかった客席は今では様変わりし、来場者が200人を超える大入りも珍しくはない。

 二ツ目は、東京の落語界では入門直後の「前座」と最上位の「真打ち」の間の身分で、入門から3~15年程度の若手が占める。楽屋の雑用やかばん持ちといった前座修業からは解放されているが、寄席の出番は真打ちが中心で、高座に上がる機会は限られていた。

■入門希望者も増加

 こうした状況が変わり始めたのは、2005年、テレビドラマ「タイガー&ドラゴン」で火が付いた前回の落語ブームの時だ。ビルの空室やカフェなどを使った20~30人規模の落語会が増えた。寄席情報誌「東京かわら版」によると、首都圏の落語会開催件数は現在、月1000件前後で10年前のおよそ2倍。出演料の安い二ツ目が人前で落語を披露する機会が増え、実力を蓄えていった。

 入門者も増え続けている。現在、上方落語も含めた落語家の数は約800人で、史上最多とされる。「リーマン・ショック前後からの長引く不況で、大卒や社会人経験者の入門も多い」(落語芸術協会幹部)

 「小さい会場が増えたおかげで、7~8年前から二ツ目が落語会を開きやすくなった。収入よりも経験を積まなければならない我々にとって有り難い。今のブームは10年前に人気を得た先輩たちが残してくれたようなもの。この環境を壊さないようにがんばりたい」。前のブームが起きた05年入門の気鋭、柳亭小痴楽は語る。小痴楽は桂宮治らと結成した二ツ目ユニット「成金」でも注目を浴びる。

■SNSで情報発信

 従来にはないコンセプトで新しいファンを集める落語会もある。渋谷の映画館「ユーロスペース」が毎月第2金曜日からの5日間で10公演を開く「渋谷らくご(シブラク)」だ。お笑いコンビのメンバーで会のキュレーターを務めるサンキュータツオが「初心者がひとりで来られる、初心者の友達を安心して連れて来られる会」として14年11月にスタートした。

 観客は20~40代をターゲットとし、出演者は同世代の二ツ目と若手真打ちが中心だ。開演時間が遅い午後8時の回は178ある客席が連日満席に。映画ファンを取り込み、客層の6~7割は女性客だ。「初心者向けに徹し、映画館の設備でゆったり見られることがウケている」(同館の担当者、木下愛氏)という。

 シブラクはネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を積極的に活用して注目度を高めている。観客から募った会の感想をホームページに随時掲載。ツイッターとも連動させて幅広い層の関心を呼び込む。ポッドキャスト(音声配信)では高座の一部を公開。アクセス数は最大2万に達するという。

 門前仲町の「深川東京モダン館」で催される「シェアする落語」は、出演者を撮影できるコーナーを設け、SNSでの情報の拡散を促す。こうした取り組みで増えた新たなファンが、老舗の末広亭や、芸歴20年未満の若手だけが出演する国立演芸場の「花形演芸会」といった歴史ある会を盛り上げる。7月24日の同会も完売で、出演した06年入門の昔昔亭A太郎は「若手中心の会にも多くのお客さんが来てくれる。修業に弾みがつく」と頬を緩める。

 6月には渋谷のタワーレコードで落語会が開かれ、新潟県湯沢町で7月にあった野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」にも落語家が登場した。これまでの枠を超えた落語ブームが広がりつつあるが、東京かわら版編集人の佐藤友美氏は「二ツ目の時期は高座経験を積む一方で古典の大作を稽古する時間も大切。多忙に流されずに精進してほしい」と注文をつける。

(文化部 小山雄嗣)

[日本経済新聞夕刊2016年8月8日付]

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