ウソはバレる I・サイモンソン、E・ローゼン著
変化する現代消費社会を活写
ネット情報の利用で消費者の購買行動に変化が起きているというのが本書のテーマである。ある製品を買おうとするとき、ネットを検索してレビュー・サイトを探し、愛用者が製品について書いた感想を読めば、購入して後悔する可能性は断然小さくなる。
これまでの消費者は、購入時の不確実性を小さくするために、製品のブランドをあてにしてきた。以前に買った同じブランドの製品が良かったから、今回も購入する。つまり、売り手は情報面で有利な立場にあり、売り手主導のマーケティングによってヒット商品を生み出せた。
新しい時代は本当に価値のある製品でなければ売れにくい。本書の原題の邦訳は「絶対価値」。これは相対価値に対置させる概念である。従来の消費者は製品情報にうとく、良さそうな製品は類似品との相対比較で選んでいた。最近は、レビュー・サイトで製品情報が「見える化」され、消費者は品質を他との比較ではなく、どれが良いかという基準で選ぶ。製造国の信頼性も関係がなくなる。スイスの時計といった商品イメージが役に立ちにくい。
20世紀の一流ブランドは、多くのカテゴリーで驚くほど安定していた。ブランド名は品質を測る主な基準でなくなり、ブランドを支えてきた忠実な消費者がいなくなっていく。だから、すでにヒット商品を送り出している企業であっても、次の商品で大失敗する可能性がある。
反対に無名ブランドでも成功するチャンスはいくらでも生まれる。しばらくヒット商品を生み出せていない日本企業にも優れた製品さえあれば、チャンスは大ありということである。企業にとって重要なのは、バーチャルリアリティーや人工知能をはじめとする最新テクノロジーに目を向け、消費者の好みを懸命に追跡して、自分たちの戦略や戦術を機動的に調整していくことである。
本書の世界観は、時代をやや先取りしすぎという声もあろう。売り手の提供する情報に踊らされやすい消費者は今も多く残っている。それでも消費者は、自分が暗闇の中にいると気づき始めている。製品情報の不確実さを前提に、製品やサービスの絶対価値を知ることができるツールに急速になじんでいく。主導権を握るのは、ツールを駆使する消費者。抑え切れない欲求に突き動かされる好奇心旺盛な人たちである。本書はそうした断面を切り取り、変化する世界を活写している。
(第一生命経済研究所首席エコノミスト 熊野 英生)
[日本経済新聞朝刊2016年8月7日付]
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