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子どもの学び

iPS細胞で重いけがや病気が治るの?

2016/8/9 日本経済新聞 プラスワン

■iPS細胞で重いけがや病気が治るの?

スーちゃん えへへ、本物のiPS細胞(さいぼう)を顕微鏡(けんびきょう)で見ちゃった。科学館に行ったら、私たちが重い病気やけがをしたときに復活させてくれるすごい細胞だって教えてもらったよ。なんでそんなことができるの。

■色々な臓器になる能力で移植をめざすんだ

森羅万象博士より iPS細胞を世界で初めて作ったのは京都大学の山中伸弥(しんや)教授だと知っている人は多いと思う。山中先生たちがiPS細胞を発表したのは2006年の8月。ちょうど10年前だ。

 iPS細胞を説明する前に、細胞のことを勉強しよう。

 人間や犬、鳥などの動物、ヒマワリやアサガオといった植物の体は細胞という小さなつぶが集まってできている。細胞の大きさは1ミリメートルの100分の1から30分の1ほどしかない。

 例えば、人間の体は37兆個の細胞でできている。数字にすると、7の後に0が12個も並ぶほどだ。そのひとつひとつが手や足、目、内臓(ないぞう)など体を形づくる基本的なパーツになっている。自動車や家電製品がたくさんの部品を組み立ててできているのとにているね。

 でも、こんなにたくさんの細胞も、もとをたどるとたった1つだった。それが受精卵だ。精子と卵子が結合してできた受精卵はその後、どんどん分かれて細胞が増え続ける。さらに増えて、体のさまざまな部分を作っていく。それらが手や足、目、内臓などになって赤ちゃんになるよ。

 いったん骨やかみの毛、筋肉などの細胞になると、もう別の細胞に変化することはできなくなる。つまり、骨の細胞は骨にしかなれない。

 そこで山中先生たちは、皮膚(ひふ)や血液などの細胞を受精卵のように、いろいろな臓器の細胞に変化できる状態に人工的にもどせないかと考えた。研究と実験をくり返して方法を見つけ、iPS細胞を作り出した。

 作り方は遺伝子という体を作る情報が入っている設計図のようなものを使うんだ。必要な遺伝子をまず特殊(とくしゅ)なウイルスに組み込む。このウイルスが皮膚などの細胞にくっつくと、遺伝子が細胞の中に組み込まれて「受精卵のような状態にもどれ」という命令のスイッチが入り、iPS細胞に変化する。

 受精卵を使えば、いろいろなものになれる細胞を作ることができる。ただ、受精卵は母親の子宮に戻せば赤ちゃんに育つ。それをこわすことには問題があると考える人が多い。iPS細胞はもとは皮膚や血液などの細胞だから、こんな問題は起きないね。

 iSP細胞で期待されているのが未来の医療(いりょう)といわれる「再生医療」だ。筋肉や神経、内臓、骨などを作り出して患者に移植して治療する。そこまではできていないけど、失明のおそれがある目の難病の人に、目の細胞をシート状に加工したものを移植する試みは続けられているよ。

 新しい薬を開発するときにも役立つ。例えば、心臓の病気を持つ人のiPS細胞から心臓の一部を作って薬をかけると、効果があるのか、副作用と呼ばれる体に悪い影響(えいきょう)がないかなどを調べられる。

 課題はまだ多いけど、研究が進めば、病気やけがで苦しんでいる人たちが助かるかもしれない。そう願って研究者たちは努力しているんだ。

■「再生力」ある生物 身近に

博士からひとこと ほ乳類の細胞(さいぼう)はいったん骨や筋肉などに変化すると、受精卵のようにいろいろな細胞になることはできない。だから、手や足など体の一部を失うと、再生できない。でも、地球には体が再生する生物もいる。その能力は原始的な動物ほど高い。
 例えば、植物の中にはサクラやアロエのように、切った枝や葉から根が出て育つ種類がある。ヒトデは切っても元にもどる。せきつい動物の中では、両生類のイモリが手や足がちぎれても再生する。こうした生物は細胞がきずつくことで、iPS細胞のように、いろいろな細胞に変化できる状態にもどると考えられているよ。

(取材協力=加納圭・滋賀大学准教授)

[日経プラスワン2016年8月6日付]

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