採用学 服部泰宏著
効率的で的絞った方法考える
経営学の研究者が、日本企業の採用活動を科学的観点からとらえ、「良い採用」とは何か、企業は採用活動をいかに変革すべきか、を考えようとした試みである。
バブル崩壊後、人材の流動化が進んだとはいえ、ほとんどの日本企業において、採用とは長期雇用を前提とした新卒者の獲得を意味する。これは、学生の潜在能力を推測、評価して選抜するプロセスであり、いわゆる"優秀な"学生を巡って人材獲得競争が過熱している。しかし、現実は採用する側とされる側双方にとって、決して望ましい状態ではないのではないか。そもそも企業にとって"採用力"とは何なのか。
著者によると、採用力とは、企業が採用に使えるリソース(有形無形の経営資源)と、採用デザイン力(採用方法の設計とオペレーション)を掛け合わせたものである。現在、一般的な企業の採用のプロセスは、大量の候補者を集め、その中から優秀な人材を選別しようとするものだが、これはコスト対比で決して効率的な方法ではない。
また、多くの企業において、"優秀さ"とはコミュニケーション能力や主体性など曖昧なイメージであり、評価は面接官のバイアスを受けやすい。加えて、どの会社も同じような評価基準のため、少数の候補者を各社が奪い合う。このような採用方法では、選抜時における候補者の評価と入社後の仕事の業績との相関関係がさほど高くないことを、多くの追跡調査が示しており、改善の余地が大きい。
ではどうしたらよいのか。著者は、最近いくつかの企業が導入したユニークな採用方法の具体例を紹介し、採用の入り口の多様化、採用のブランド化など10の類型に整理する。
これらの新しいアイデアは、自社の採用リソースと採用デザイン力を徹底的に洗い直し、持てるリソースを最大限活用しながら効率的で的を絞った採用活動のデザインを設計することによって、自社にとって本当の意味で優秀な人材を獲得しているという。むろん、個々の企業が置かれた状況は異なるので、こうすれば成功するという普遍的な公式があるわけではない。
著者は、単なる面接研究や適性検査研究を超えて採用活動を全体としてとらえ、社会の役に立つ採用学という分野を切り開こうとしている。本書そのものにはいまだ「学」というほどの方法論や理論があるようには見えないが、考え方には示唆に富む点が多く、今後の展開が楽しみである。
(経済評論家 小関 広洋)
[日本経済新聞朝刊2016年7月31日付]
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