ラーメン新鋭、福島鶏白湯 こってり絡む黄金スープ
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福島県二本松市にある「麺処 若武者」は毎週水曜日だけ店名を「福島鶏白湯専門店 ふくのとり」に変える。30時間かけてスープを煮込む福島鶏白湯のために、厨房を集中利用する特別な日だ。他のメニューも提供する通常営業では、福島鶏白湯は1日10食限定になるが、水曜はいつ来ても味わえる。店主の山本一平さん(35)は「60キログラムのスープをつくるのに120キログラムの材料を使う」と笑う。
福島鶏白湯は現在、獅子奮迅隊のメンバーが県内各地の10店で提供している。(1)スープは三大鶏を煮込んで作る(2)具材には主に県産の食品を活用する――のが原則だ。見た目の最大の特徴は黄金色に光るこってりスープ。濃厚だがくさみがなく、ほどよく絡みついた細麺の口当たりがラーメンファンにはたまらない。「若武者」に通う会社員、西間木孝俊さん(38)は「このスープはほかでは味わったことがない」と喜ぶ。
福島鶏白湯が誕生したのは13年夏。原発事故による観光客の急減や風評被害にあえぎ続けていた県内の食品業界の支援になればと、5つのラーメン店の店主が獅子奮迅隊を結成した。「だれにとっても身近なラーメンで、福島を元気づけよう」と、スープのだしを三大鶏100%と定め、喜多方、白河に並ぶ「第3の福島名物ラーメン」づくりに取り組んだ。
鶏のうまみを消さないために、喜多方、白河で伝統的なしょうゆ味ではなく、まず塩味を採用。地鶏に豊富なコラーゲンでコクを生み、スープ表面に浮かべた鶏(チー)油で、食欲をそそる香りと光を演出した。めんはスープとの相性を試行錯誤した結果、細麺を使うことが基本となった。県全体の復興をPRするためチャーシューや野菜にも県産品を積極的に使い、名称にも「福島」を冠した。
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地元での好評を追い風に14年の「東京ラーメンショー」にも出品し、約1万1000食の売り上げを記録。発足メンバーのひとりで福島市内の「たなつものSHOKUDOU」を経営する広田裕介さん(37)は「長蛇の列に並んで食べてくれた人が『福島頑張れ』と声をかけてくれて、うれしかった」と振り返る。
獅子奮迅隊として県外への出張PRも大切にするが、最優先はいかに福島に来て食べてもらえるか。福島鶏白湯を扱う店は現在10店に広がったが、さらに県内各地の同志を増やし、名物としての認知度を高めることも当面の目標だ。
しじみやワサビを使ったラーメンが売りの「あじ庵食堂」(喜多方市)の店主、江花秀安さん(38)は「福島の1次産業の復興を支援する思いに共感した」と、15年春に獅子奮迅隊に加わった。同店の福島鶏白湯は基本の細麺だけでなく、喜多方で主流の縮れ麺や極太麺でも提供している。「麺とスープのからみ方に違いがあり、来店客の好みで味わってもらっている」
店内には三大鶏の写真や解説の入ったポスターが並び、店先には「会津地鶏」の文字が躍るのぼりも立つ。高校卒業後、各地の飲食店で働いたあと「ふるさとのラーメンを、よりおいしくしたい」と帰郷し、9年前に創業した。福島再生への思いは強い。
福島鶏白湯への行政側の期待も大きい。県農業総合センター畜産研究所は「個々のブランドではなく『福島』の一体感をもって打ち出してもらえるのは、知名度を高める上でもありがたい」(養鶏科)という。
獅子奮迅隊は5月、福島鶏白湯にみそ味を追加した。地元の米・大豆の農家などと連携し、鶏白湯専用の県産みそを仕込んだ。三大鶏スープの原則を継承しながら創造を続けるご当地ラーメンの新たな伝統が生まれつつある。
福島鶏白湯に使われている会津地鶏と川俣シャモは系譜の基準などが日本農林規格(JAS)に適合した「地鶏」。伊達鶏は地鶏とは言えないものの、ストレスの少ない環境などで育てられた「銘柄鶏」だ。
白が基調の会津地鶏は黒く長い尾羽、川俣シャモや伊達鶏は赤褐色の羽色が特徴。いずれも歯応えやうまみのある肉質が食材として好まれている。原発事故後の2011年度は、特に川俣シャモの出荷数が10年度の55%に落ち込むなど影響を受けたが、現在は震災前の水準を回復している。
(郡山支局長 天野豊文)
[日本経済新聞夕刊2016年7月26日付]
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