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個人型確定拠出年金っていう制度がお得だという話を聞いたわ。いったいどういうものなのかな。わたしにも利用できるの?

「個人型確定拠出年金(DC)」について、杉本優子さん(58)と田中智子さん(33)が田村正之編集委員の話を聞いた。

 そもそも「個人型DC」って何ですか。

「わたしたちが老後にもらえる年金にはいくつか種類があります。まず、すべての国民を対象に、保険料を一定の年数以上支払えば受給できる『基礎年金(国民年金)』。それに加えて、会社勤めをしている人は『厚生年金』が上乗せされます」

「さらに、企業が独自に『確定給付型年金(DB)』や『確定拠出年金(DC)』という企業年金の制度を用意している場合もあります。『DB』は勤続年数などに応じて将来受け取れる年金の額が決まっています。一方『DC』は年金に拠出する掛け金の額だけが決まっていて、運用方法は自分で選び、将来受け取る年金の額は運用成績によって変動します」

「このDCは『企業型』ですが、『個人型DC』という制度もあります。これまでは自営業者や、勤め先に企業年金が無い人(全国で約4100万人)しか個人型DCを利用できませんでした。しかし今年5月に国会で法律が改正され、新たに2017年1月から企業年金の加入者や公務員、専業主婦なども個人型DCを利用できるようになりました。企業型DCも含めると、実質的にすべての現役世代の人がDCの仕組みを使えるようになるため、注目を集めています」

 なぜ注目されるのですか。

「大きな節税メリットがあるからです。個人型DCの掛け金は上限が決まっていて、自営業者は月6万8000円(年81万6000円)、会社員は月2万3000円(年27万6000円)です。この掛け金は全額、所得控除されるので、所得税や住民税が減ります。課税所得が300万円で所得税率10%、住民税率10%の会社員が上限まで掛け金を拠出すると、節税額は1年に5万5200円、20年間では約110万円にもなる計算です。所得が多く税率が高い人はさらに節税額が大きくなります」

「また、60歳までの運用期間中に投資信託の値上がりで利益が出たり、分配金を受け取ったりした分も非課税です。さらに、60歳以降に引き出すときには一時金として一括して受け取るか、年金として受け取るか選ぶことができて、それぞれ退職所得控除や公的年金等控除という優遇策があります。引き出すときも税金がかからないか、少額で済むわけです。収入の無い専業主婦の場合、所得控除のメリットはありませんが、運用時や受け取るときの節税メリットだけでも大きいのです」

 値下がりリスクのある投資信託で運用するのは不安だという人もいるのでは。

「個人型DCは投資信託だけでなく、元本保証の預金で運用することもでき、この場合も掛け金の節税効果が得られます。預金の利子も非課税ですが、いまは金利が非常に低いので、運用益に税金がかからないというメリットは小さくなりますね。若いときには高い利回りを求めて、リスクを取って積極的に運用し、50代になったらリスクを減らすため預金に資金を移す、といったことも可能です」

 注意すべきことはありますか。

「個人型DCは銀行や証券会社、保険会社などの運営管理機関を自分で選んで加入を申し込みます。金融機関によって年間手数料の差が最大4倍近くもあるので要注意です。現時点で最も安い金融機関は年間2004円ですが、地方銀行では年間7000円台後半に達する例も珍しくありません。手数料が高い金融機関なら手厚いサービスが受けられるというわけでもありません。年収が少ない人や、掛け金が少ない人は、所得税や住民税の節税メリットの大半が手数料で消えてしまう場合もあり得ます」

「もう一つ重要なのが、扱っている投資信託の品ぞろえです。金融機関によって品ぞろえは千差万別で、その投信の『信託報酬』にも大きな違いがあります。信託報酬は一定の割合で運用資産から差し引かれるコストで、運用成績に大きく影響します。確定拠出年金教育協会が運営するウェブサイト『個人型確定拠出年金ナビ』などを参考に、各金融機関の手数料や投信の商品構成、信託報酬を比較するとよいでしょう」

ちょっとウンチク


認知度低く加入率は0.6%
 「隠れた投資優遇税制」。個人型DCはずっとこんな呼ばれ方をしてきた。大きな税制優遇があるのに、実際の加入者は4月時点で26万人と、対象者のわずか0.6%にすぎない。制度がほとんど知られていなかったためだ。
 その最大の理由は金融機関がほとんど宣伝してこなかったこと。もうかりにくいからだ。個人型DCでは投資信託の販売手数料が原則無料だし、信託報酬も比較的低いものが多い。しかも残高は月に数万円ずつしか積みあがっていかない。「普通の投信販売で、利幅の厚い投信を一挙に何百万円も買ってもらう方がはるかに効率がいい」という金融機関の声を何度も聞いたことがある。
 金融機関がもうからないということは、逆に言えば個人にとって有利だということ。老後資金を作る最優先の手段として積極的に使いたい。基礎年金、厚生年金は財政難から実質的な減額が見込まれている。今回の法改正は「自前で老後資金を作ってください」という国からの明確なメッセージだ。
(編集委員 田村正之)

今回のニッキィ


杉本 優子さん 金融業勤務。1年に1度は上海へ旅行に出かける。「最近、上海市内の人気飲食店の混み具合の変化などから、中国経済の変調を感じています」
田中 智子さん 医療機器メーカー勤務。今年からマーケティングの勉強のため大学院のビジネススクールに通い始めた。「法務や財務も勉強して視野が広がります」
[日本経済新聞夕刊2016年7月25日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は8月8日の予定です。

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