歯のホワイトニング広がる 事前に効果と費用見極め
ワインや喫煙控え白さ保つ
6月下旬の夕方、昭和大学歯科病院(東京・大田)の美容歯科の5つの診察ブースは、歯のホワイトニング施術を受ける人たちで満員だった。女性に交じり、白いワイシャツ姿の中年男性も施術を受けている。
同大学美容歯科学部門主任教授で日本歯科審美学会の常任理事を務める真鍋厚史さんは「ホワイトニングは若い女性向けという印象が強いかもしれないが、最近は歯の変色に悩む中高年が増え、患者の年齢層も広がっている」と話す。
「1年程度もつ」
ホワイトニングとは、歯のブリーチング、いわば漂白のことだ。歯科医院で歯科医師などが施術する方法を「オフィスホワイトニング」、患者自身が歯科医師の指導の下に自宅で漂白する方法を「ホームホワイトニング」と呼ぶ。
昭和大で実施している通常の手順は、(1)歯の表面の汚れや付着物を落とすクリーニングをする(2)薬剤が周辺の歯肉(歯茎)に付かないよう、保護材で歯肉を覆う(3)専用の薬剤を筆で厚さ1~2ミリになるよう歯に塗る(4)数分置いた後、歯科用可視光線照射器で薬剤を塗った歯の表面を照射する、だ。この手順を一定期間をおき、3~4回繰り返す。
歯が白くなる主なしくみは、過酸化水素水が持つ色の成分を分解する働きによるものだ。同時に光に反応する薬剤が光化学反応を起こす。薬剤が歯の表面のエナメル質や、内部の象牙質の一部に働きかけ、飲食物による褐色の染みや加齢による黄ばみなどを分解していく。
現在、歯科医院でのホワイトニング薬剤として厚生労働省が認めているのは1998年発売の「松風ハイライト」、2006年発売の「ピレーネ」、10年発売の「ティオンオフィス」の3種。真鍋さんは「美容歯科医はこのいずれかを使っている」と話す。
効果はどのくらいもつのだろうか。同大学美容歯科学部門専任講師の山口麻衣さんは、施術後、定期的にクリーニングをしたり、色素の再沈着を招く喫煙をやめるなどの生活習慣を改善すれば、「多少、後戻りはあっても1年くらいは効果が保てる」と話す。他にも、歯磨きを欠かさない、ワインやコーヒーなど色素の多い物の飲食を控えるなどの注意が必要だ。
また、そもそもホワイトニングに注意が必要な人もいる。「過酸化水素を分解する酵素を作ることのできない病気の無カタラーゼ血症の人、光線過敏症、膠原(こうげん)病、気管支ぜんそく、心臓疾患がある人など」と山口さん。
薬剤を分解できなかったり、光線刺激で唇や口角の皮膚が赤くなるなどの症状が出たりするからだ。心当たりがある人は必ず施術前のカウンセリングで伝え、受けられるかどうかを歯科医師に検討してもらうといい。
費用は全額自費
ホワイトニングは本人の美意識を満足させ生活の質の向上を目指すための施術なので、健康保険などの対象にならず、全額が自費負担となることも知っておこう。
昭和大学歯科病院の場合、初診時に特殊相談料を含む初診料5250円とクリーニングや最初に歯の色を調べるための料金5250円がかかる。1歯あたりのホワイトニング処理料は1680円。正面の上下6歯ずつ計12歯を処理すると、最初の治療で3万円強になる計算だ。4回の施術だと再診料なども含め11万円弱となる。
効果は個人の受け取り方に左右される面がある。真鍋さんは「施術者と患者で事前にどの程度の効果を期待するかなどを十分話しあって決めておいてほしい」と話す。昭和大歯科病院は、患者だけでなく親や配偶者など第三者にも契約内容を確認してもらうという。
真鍋さんは信頼できる医院選びの目安として「日本歯科審美学会など定評のある学会に所属する歯科医師が在籍していること、歯科衛生士が同学会のホワイトニングコーディネーター資格を保有していること」の2点を挙げる。コーディネーター資格を持つ歯科衛生士は現在、全国に約7000人。歯科衛生士法の改正で、歯科医師の指導のもと歯科衛生士が施術することも多い。医院は可能な限り慎重に選ぶべきだろう。
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クーリングオフ対象になる可能性
ホワイトニングを含む美容医療では、以前から広告や施術料金をめぐる消費者トラブルが報告されてきた。そのため、国の消費者委員会は昨年12月、特定商取引法改正などに向けた報告書で、美容医療契約を同法の「特定継続的役務」に加え、クーリングオフが効くようにするよう求めた。
特商法は6月に改正され、消費者庁は「規制の対象となる美容施術の種類の具体化を進めている」(佐藤朋哉取引対策課長)。消費者委員会での話し合いの経緯をみると、ホワイトニングも対象に入る可能性がある。無用なトラブルを避けるためには、消費者も支払い条件などを十分に知っておくことが大切だ。
[日経プラスワン2016年7月23日付]
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