トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男
書き続け復権した脚本家
往年のハリウッドの内幕をえがく映画だが、主人公はスターや監督ではなく、脚本家のダルトン(ドルトン)・トランボ。赤狩りの槍玉(やりだま)にあげられ、映画界から追放され、投獄もされた彼が、いかにたたかい、生きのびて復権を勝ちとったかが、つづられる。
第2次大戦後の1947年、共産主義者を排除しようとするHUAC(下院非米活動委員会)が、ハリウッドの映画人を喚問しはじめる。委員会に非協力的とみなされるとブラックリスト入りし、しごとをうしなう。
トランボ(ブライアン・クランストン)は、変名をつかったり、ほかの脚本家の名義を借りて、脚本をかきつづける。そのなかには名作「ローマの休日」(53年)の原案もある――という事実も興味深いが、それ以上におもしろいのは、B級映画専門の独立プロを経営するキング兄弟とのかかわり。もうけ第一で、思想信条は不問というボス、フランク・キング(ジョン・グッドマン)の豪快なアウトロー的性格が痛快だ。
この会社で最初に手がけたのが、どうやら、いまではB級映画の傑作として人気の「拳銃魔」(50年)のようだ。さらに、ロバート・リッチなる架空名義でかいた「黒い牡牛」(56年)が、アカデミー脚本賞にえらばれるという事件もおこす。
やがて、超大作「栄光への脱出」と「スパルタカス」(ともに60年)でトランボは復権をはたすわけだが、そこまで、豊富なエピソードが平明にかたられる。
トランボに敵対するコラムニスト、ヘッダ・ホッパー役のヘレン・ミレンと、彼をささえ家族をまとめる賢妻クレオ役のダイアン・レイン。対照的な二人の女優の好演も印象にのこる。
鋭いタッチの告発映画ではないのだが、半世紀以上まえの赤狩りが、遠い日のできごととばかりはかぎらない、という感覚はのこす。
監督はジェイ・ローチ。2時間4分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年7月22日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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