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抑留体験が絵筆導く 水彩画40点が世界記憶遺産に

漫画川柳作家、木内信夫

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NIKKEI STYLE

「決まったよ」。昨年10月10日の午前2時すぎ。息子からこう伝えられ、その夜は興奮で眠ることができなかった。終戦後、私が旧ソ連の東欧・ウクライナで受けた抑留体験を元に描いた水彩画40点を含むシベリア抑留の資料が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に登録が決定したのだ。

この時、真っ先に思い浮かんだのは、若くして死んでいった戦友の笑顔だった。戦中戦後、捕虜が生きて帰ることは恥だった。自分だけ生き延びたことを申し訳ないと思っていたが、ようやく胸を張って天国の仲間に生き続けてよかったと報告できると思った。

▼ ▽ ▼

■過酷な捕虜体験隠さず

21歳の時、出征先の満州で終戦を迎えた。飛行機の製造技術者の養成校を卒業し陸軍の飛行部隊に入隊、飛行兵になって間もなくのことだ。その後、旧ソ連軍の捕虜となりウクライナで約2年半の抑留生活を送った。そして1948年、引き揚げの街として知られる京都府舞鶴市の地を踏んだ。

何度も死を覚悟したのに生きている。ならば記憶が鮮明なうちに抑留体験を記録に残さなければ。そう思い、帰国後間もなくしてA5サイズの画用紙に水彩画を描いた。水彩絵の具を使ったのは乾くと重ね塗りができたためで、描き上げた作品数は100を超えた。

むしろを囲いにした露天便所。およそ6畳に24人が放り込まれた寝床。ドラム缶に入った排便の処理。極寒での石採り作業に岩山運び。凍死や病死をした戦友のみとり、そして埋葬……。捕虜生活は過酷そのものだった。つらい思い出やひどい扱いを受けたことも隠さず描写した。

一方で、ロシア人や同じく捕虜だったドイツやハンガリー、イタリアなど様々な国の兵士との交流も描いた。例えばスラブ人との合唱、ロシア人との相撲、モンゴル人との乗馬、ドイツ人との卓球などだ。そこには戦勝国も敗戦国もなく、人種などの差別もなかったことを表現した。

▼ ▽ ▼

■凍える青い目の少年兵

ここに掲げた絵は、ロシアの少年兵との思い出だ。ある日道端に、冷たい水が半長靴に入り今にも泣きそうな少年がいた。年齢を聞けば14歳だという。少年の隣に座り凍傷になりかけたその足を両手でもんでやった。すると少年は、青い目に涙をためたのだった。きっと家族のことを思い出したのだろう。少年兵といえば日本にもいた。15歳の少年が手りゅう弾を抱いて敵戦車へ飛び込んだといわれる。むごい話だ。

96年には、息子がインターネットに「旧ソ連抑留画集」というタイトルのホームページを開き、これらの作品を掲載した。するとどうだろう。外国から思わぬ反響があった。このページを通じて知り合った人たちの協力を得てロシア語、英語、イタリア語などでも閲覧できるようになった。

2011年にはこんなこともあった。ホームページを見たモスクワに住む男性が「作品に描かれた人物は私の父ではないか」と写真を送ってくれた。その人物とは旧ソ連空軍将校のパクロスキー・カピタン大尉。同じ航空兵だと知って仲良くなり、私たち日本人を信頼して倉庫のカギを預けてくれた。そんな彼の息子から連絡が来るとは夢にも思わなかった。

絵には「みんな戦争なんて嫌い、仲良しなんだ」という思いを込めた。反戦というより、人類愛がテーマ。世界遺産として認められたのは、世界のみんなが共感できる要素が絵の中に描かれていたからだろうと思う。

▼ ▽ ▼

■不戦の誓い筆に込めて

こうして抑留体験者として注目されることになったが、名刺に名乗る肩書は漫画川柳作家。筆名は「紫幽(しゆう)」という。子供の頃、幽霊の話が好きな私に友人が付けてくれたあだ名だ。母方の祖父や母が俳句をたしなんでいたため、幼少期から見よう見まねで創作していたが、季語を入れない川柳の方が性に合っていると、10代半ばから詠み始めた。

今も川柳の愛好団体「神田川柳会」に所属して、10人ほどの仲間と創作を楽しんでいる。私の役割はもっぱら仲間が詠んだ川柳にふさわしい絵を描くこと。不思議なもので、五・七・五の句を聞くと、頭に絵がぱっと浮かぶ。これまで1000句以上の絵を描いた。

かつて死を覚悟した青年は、今年の11月で93歳になる。この際、もっともっと長生きして、水彩画を描き続けたいと思っている。二度と悲惨な戦争が起きないでほしいと願いながら。

(きうち・のぶお=漫画川柳作家)

[日本経済新聞朝刊2016年7月21日付]

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