まっぷたつの先生 木村紅美著
教師と教え子の微妙な感情
高校生の青と入れ代わりに浴室に入り、沙世がシャワーを浴びるシーンがある。もしもいま、青がこちらへやってきたら自分は拒まないだろう、と思うシーンだ。そのとき沙世は30歳。その直前には、青の寝顔をじっと覗(のぞ)き込むシーンがある。アパートの合鍵を渡していたので、青は勝手に入っては読書したり昼寝したりしていたのだ。
青がまだ半ズボンを履(は)いていたころ、彼の父親と恋に落ちた沙世は、別れてからも彼の住む街にいた。傷ついた沙世と、家に帰りたくない青の、微妙な感情がこのシーンからゆらゆらと立ちのぼっている。教師と教え子たちのその後を描くこの長編の、これは脇筋といっていい場面だが、妙に印象深いのである。
★★★★
(文芸評論家 北上次郎)
[日本経済新聞夕刊2016年7月21日付]
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…
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