擬人化した漫画「はたらく細胞」、着眼点で勝負
細菌と戦う白血球は熱血漢
都道府県から世界の国々、鉄道や刀まで、モノをキャラクターに置き換える擬人化作品がサブカルチャー界で勢力を伸ばしている。ジャンルの代表格といえるほど人気を集めるのが、人間の体内の細胞を「キャラ立て」して描く漫画「はたらく細胞」(清水茜著、講談社)だ。新人のデビュー作だが、斬新な着眼点が好評で、3巻までの発行部数は累計で約75万部に上る。
酸素を運ぶ赤血球はかわいい女性、細菌やウイルスを撃退する白血球は熱血の男性に。食中毒菌など侵入した外敵に力を合わせ立ち向かう姿を描く。連載する漫画誌「月刊少年シリウス」の担当編集者、芝尾裕之氏は「細胞を娯楽作品にした例は教育漫画を除けばないと思う」と語る。
同作の強みは、人間の体内や健康を維持する免疫機能の働きといった、誰もが関心を持つ世界を舞台に設定した点だ。昨春の連載時から、インフルエンザに花粉症と、共感を広げられそうな身近な疾患を次々と取り上げ、スタートダッシュをかけた。
同誌副編集長の仲間圭吾氏は「近年の傾向として単行本は1.2巻までが勝負。面白くないと思われれば、もう見向きもされない」と強調する。話題の漫画「進撃の巨人」は、1巻目で主人公が敵の巨人に食べられる衝撃の展開をみせて人気に火が付いた。序盤にクライマックスを持ってくる同作の方式が漫画界の「1つのフォーマットになっている」(仲間氏)という。
昨夏に第1巻を発刊。通常、新人デビュー作の初版は1万部前後だが、同作はそれを大きく上回る数倍の部数を準備した。講談社販売局の土沼勇人氏は、作品への期待から「バクチとして大きく張った」と振り返る。書店の評価は高く、入り口正面など目立つ売り場に平積みされ、発売から1カ月で部数は10万部を突破。今年6月に3巻まで刊行、売り上げを伸ばしている。
新しさと親しみやすさ、両方を兼ね備えた魅力が人気を支える。加えて、作家の描写力も見逃せない。キャラクターの性格を物語になじませながら丁寧に描き込む。酸素を取り込み二酸化炭素を排出する肺を空港に見立てるなど、独特の解釈と見せ方で引きつける。読者は性別と年齢を問わず広がっているという。快進撃は続きそうだ。
(諸)
[日本経済新聞夕刊2016年7月20日付]
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