大人の塗り絵でリラックス? 30分集中、ストレス解消
「塗り絵に没頭すると気持ちがいい」としてブームに火を付けた塗り絵集「ひみつの花園」(グラフィック社、1404円)を開く。繊細な線で様々な形の花や葉が何ページも載っている。英米、中国、ブラジルなど世界44カ国で2000万部を発行したという。「仏では精神安定につながるアートセラピーとしても注目を集めている」(同社国際部)
保育園児2人の子育て、仕事、家事に追われる私だから、イライラやストレスを気分転換できるなら、ぜひ趣味にしたい。WINフロンティア(東京・千代田)の測定器「ライフスコアクイック」を使えばリラックス度(10点満点)を測れるという。塗り絵をそれぞれ15分、30分、45分間取り組み、数値の変化を調べることにした。
長時間は逆効果 ほどほどがよい
ストレスの高くなる状況をつくり、15分塗り絵をしたらどうなるか。先輩記者に紹介を受けた取材先で、ミスをしでかしたと報告した日に試す。落ち込んだ気分でリラックス度は0.9。かなりのストレスだ。この状態でクレマチスや時計草、ダリアのような花々の絵を色鉛筆の赤、黄、オレンジで塗っていく。
大きな絵柄の6分の1ほどが塗れたところで15分がたった。結構時間がかかる。心理状態が変わったとの実感はあまりない。でもリラックス度を測ると3.4。これくらいの塗り絵で数値が改善するんだと驚いた。
次は30分だ。別の記事を仕上げるため、いくつか電話取材をした。思ったような話が聞けない状態で出た数値は1.3だった。ストレス解消に向けて、今度は好きな緑色でツタのように絡まる葉を塗り始める。うねるような形をつぶしていくと、なんだか気持ちが乗ってくる。「集中したな」という実感も高い。絵柄の半分弱ほどに色が入った。30分後の数値は7.1。おっ、かなりの上昇だ。
さらに45分に延ばそう。1日仕事をして家に戻り、子どもを保育園へ迎えに行くまでの時間を塗り絵に充てた。絵柄は残り半分。完成目前だからぜひとも仕上げたい。ピンク、黄色、青、緑、茶色と色鮮やかなコントラストで花輪の絵柄が浮き上がって見えてきた。「ステキ」
なのに、45分で仕上げた後のリラックス度は3.4と下がってしまった。仕上げなきゃ、子どもを迎えにいかなきゃという焦りがストレスになったか。
複雑な絵柄が効果 単純だと満足せず
塗る絵柄の単純さ・複雑さの違いがリラックス度の差に結びつくのか。絵柄を変えて調べてみる。単純な代表として2、3歳児用の塗り絵本にあったチューリップ、ヒヨコの塗り絵を試す。チューリップはオレンジと黄色、ピンク、ヒヨコに使ったのは黄色とオレンジで色を選ぶ楽しみが少ない。仕上げ時間は3~6分ほど。達成感がないのが残念だ。リラックス度の変化幅は1.9の悪化と0.3の改善。効果はあまり出なかったようだ。
一方で、30分ほどで仕上げられそうな複雑なマンダラ模様の絵を塗ると、リラックス度は3.0改善。結局、私の場合は30分ほどの挑戦しごたえのある塗り絵が効果が高そうだ。
塗り絵でリラックスするのはなぜだろうか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「音楽鑑賞やヨガ、太極拳などと同じで、塗り絵に取り組むと呼吸が整う。無意識にした深呼吸が自律神経を良い方向に調整するためだ」と説明する。また心配事やストレスの原因を考えすぎている脳を、単純作業が解放する影響もあるという。
最後にリラックス効果があるといういろんな方法を塗り絵と比べてみた。深呼吸を意識的にすると数値変化は2.4の改善だった。リラックスの仕組みを考えれば納得できる。大好きな近所の菓子店のイチゴのショートケーキを、ゆっくり味わった後は3.7の改善。まずまずの効果だが、イライラするたびに食べて太ってしまうのは困る。
リラックスの実感と数値変化(1.7改善)が最も納得できたのが、近所の公園の散歩だ。約15分と、それほど長い時間ではないものの、歩みと呼吸のリズムが一致する感覚が心地よく、雨上がりの緑の香りや滝の音に心が安らいだ。
塗り絵は手軽で楽しい。職場で頻繁にやるわけにはいかないけれど、我が家では子どもと夫が入浴している間にできそう。色を選び作品として仕上がったときの喜びはひとしおだ。同年代の女性がはまる気持ちが理解できた。
海外ではペンで鮮やかに
「ひみつの花園」は2013年、大人向けの塗り絵として出版された。一見、緻密な絵柄に「こんな絵柄を仕上げられるかな」と思うが、だからこそ没頭できる。とにかく好きな色で端から塗りつぶしていけばいい。グラフィック社によると、海外では色のコントラストが映えるサインペンやボールペンで塗ることが多いという。今度はペンで塗ってみたい。
リラックス度測定にはスマートフォンで測るアプリ「COCOLOLO(ココロ炉)」(無料)もある。数字に振り回される必要はないけれど、ちょこっと実験すると発見があって楽しい。
(畑中麻里)
[日経プラスワン2016年7月16日付]
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