地方の親の介護準備 都市で働く子供がすべきこと
子供=入院などお金工面、親=資産まとめておく
「考えてはいるものの、話を切り出しにくくて」。埼玉県に住む40代の男性会社員は言う。離れて暮らす両親は70歳を過ぎ、衰えを感じるようになった。入院や介護が必要になった場合、お金は大丈夫か気になるが「財産目当てと誤解されそう」と漏らす。
必要な額考える
介護支援のNPO法人「パオッコ」(東京)の太田差恵子理事長は「最初から親の財産全体の話を聞こうとするのは誰でも難しい」と話す。第一歩として、急な入院や介護で「当面必要になるお金から話をしてみてはどうか」と提案する。
例えば、入院するケースでいくらくらい必要になるか考えてみよう。生命保険文化センターの2013年度調査では、60歳代の入院にかかった自己負担額は1日当たり1万7070円だった。平均入院日数は22.8日。1回の入院費用は23万円かかる。この金額は入院時に個室を希望するかどうかでも大きく変わる。
個室を選んで使う場合に発生する「差額ベッド代」には公的保険が適用されない。厚生労働省によると、全額自己負担の場合は1日平均6129円かかる。最高額は37万8000円で最低は100円とばらつきがある。「大部屋では眠れない」など親の気持ちを聞いてから考えよう。
準備できるお金に加え、民間の医療保険に加入しているかも確認が欠かせない。仕事や近所付き合いで加入したまま本人が忘れていることもあるので、注意が必要だ。
当面のお金の話にメドがついても、銀行から引き出せなければいざという時に役立たない。話し合う際には、お金をどこに預けているかどうかなどを聞いておきたい。
事前に預金整理を
病気やケガによる入院をきっかけに介護が始まることも多い。介護はかかるお金や期間が入院以上にかさむ。介護の話は親子ともしにくいが、太田理事長は「親の具合が悪くなり必要性が高まるほど話しにくくなる」という。1回の話し合いで結論を出そうとせず、なるべく元気なうちから時間をかけて相談していこう。
親の側も年を重ねるのに合わせ最低限やっておきたいのは、「預金の整理」(ファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏)だ。高齢者は口座をたくさんつくっていたり、子どもや孫名義で開設していたりする人が多い。金融機関で10年以上出し入れがない休眠預金は毎年800億円程度発生している。
どうしても子どもに財産全体の状況を伝えたくない人は貯金や有価証券、不動産など資産の状況をまとめて書いておき、どこにあるかだけ子どもに教えておくのも一案だ。
お金の話と併せてどう暮らしたいかも欠かせない。自宅暮らしを希望する親が病気になっていないか確認するには複数の民間サービスがある。日本郵便などが高齢者向けの見守りサービスを提供している。民間の配食サービスを利用する場合は、見守り代わりにもなる。
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入院患者の7割、65歳以上 高齢者ほど日数も長く
高齢者の医療費は70~74歳が2割、75歳以上が1割が自己負担となっている。高齢者でも現役並みの所得がある人は3割負担だ。
厚生労働省によると、65歳以上の高齢者の1日当たりの推計入院患者数は2014年が93.7万人と全体の71%を占める。入院日数も高齢者ほど長くなる。
介護や支援が必要な高齢者も増えており、606万人にのぼる。介護保険は原則、65歳以上で市町村から要介護認定を受けた人が費用の原則1割(一部は2割)を負担して利用する。
介護保険は今後、サービスを利用する高齢者の負担が増えそうだ。厚労省は18年度の制度見直しで、介護の必要度の低い人が掃除や料理のサービスを受ける場合は保険の給付対象から外すことを検討している。実現すれば、原則1割から全額自己負担になる。介護にかかる期間は平均で5年弱。事前の備えが一段と欠かせなくなりそうだ。
(奥田宏二)
[日本経済新聞夕刊2016年7月14日付]
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