生きうつしのプリマ
「家族」問うサスペンス
3年前にわが国で公開され話題を呼んだ「ハンナ・アーレント」のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督の新作である。著名なユダヤ系女性哲学者の生き方を描いた前作とは異なり、今回は家族の秘密にまつわる謎をサスペンスフルに描いている。
ドイツで歌手として働きながら生活のため結婚コンサルタントをするゾフィ(カッチャ・リーマン)。ある日、父親のパウルから1年前に亡くなった母親のエヴェリンと瓜二(うりふた)つのオペラ歌手をネットで見たと知らされ、ニューヨークで公演する彼女に会いに行ってほしいと頼まれる。
オペラの人気歌手のカタリーナ(バルバラ・スコヴァ)は、個性的だが気紛(きまぐ)れな性格で、最初はゾフィを相手にしない。だが、ゾフィが認知症患者の施設にいるカタリーナの母親に会いに行って、彼女がエヴェリンを知っていたことから、カタリーナは自分の出自に疑問を抱き始める。
映画はカタリーナの出自をめぐって謎を膨らませながら、一方でドイツにいるパウルが亡き妻の幻影に悩まされる姿を見せる。やがて舞台はドイツに戻り、カタリーナとゾフィが異父姉妹であることが判明、カタリーナの父親は誰なのかという謎に行き着く。
トロッタ監督には「鉛の時代」や「三人姉妹」などこれまで姉妹を主人公にした作品が目立つが、その背景には監督自身に本作と同様な実体験があるという。本作の物語はそこから着想を得たわけだが、何もかも見知った家族の固い絆の隙間から知られざる顔が浮かび上がってくる人生の陰影は胸に響きわたる。
脚本も演出も手堅い。サスペンス調の謎解きで引きつけながら、家族とは何かを巧みに問いかける力量は確かだ。トロッタ監督の作品でお馴染(なじ)みのスコヴァ(カタリーナとエヴェリンの2役)とリーマンが好演。1時間41分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2016年7月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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