コルビュジエの教え息づく 「弟子」たちの建物巡り
前川国男、吉阪隆正… 東京都内に点在
近代建築の巨匠ル・コルビュジエ(1887~1965)が設計した国立西洋美術館(東京・上野)が7月に世界文化遺産に登録される見通しとなった。国内にル・コルビュジエの作品はこの建物だけだが、彼に師事した日本人建築家たちの作品は都内にも点在する。その「弟子」たちの建物のいくつかを巡った。
まずは上野恩賜公園で西洋美術館の真向かいに建つ東京文化会館。日本人で初めてル・コルビュジエの弟子となった前川国男(1905~86)の設計だ。コンクリート造りの巨大なひさしやピロティが師の建築を思い起こさせる。対照的に、同じ園内にある東京都美術館は晩年の前川の個性がにじむ作品。ぱっと目を引く外壁は一見レンガ造りのようだが、タイルでできている。コンクリートと一緒に固めて頑丈にする独自の「打ち込みタイル」工法だ。同館の建築ツアーガイド、大山光彦さんによると、コンクリートの劣化という問題に直面した前川が耐久性を追求してたどりついたスタイルだという。
上野から西に約45キロ。京王線北野駅(八王子市)から10分ほどバスに揺られ野猿峠の停留所で下車して坂道を上ると、丘の上からピラミッドを逆さにした形の不思議な建物が見下ろしてくる。弟子の吉阪隆正(1917~80)が手がけた大学セミナーハウスの本館だ。初代館長の飯田宗一郎さんの「教師や学生たちが一緒に自然の中で学ぶ場を創りたい」という夢を吉阪が具現化し、65年に研修施設として完成した。合理性や機能美を特長とする近代建築の名作として知られる。
多摩の美しい自然を生かし、地形を残したまま約2万坪の敷地に2人用の小さな宿舎100戸やセミナー室を作った。本館4階の食堂からは多摩ニュータウンを一望できる。吉阪の教え子である斉藤祐子さんは「どこまでも広がっていた多摩丘陵の景色はすっかり変わった」と話す。開館後も約20年かけて講堂や図書館などを加えた。必要な要素を足しながら維持管理する。これも吉阪の考えだ。
坂道に沿って次々に建築が立ち現れる。スロープで建築空間を自在に広げたル・コルビュジエの影を感じる。雨にぬれたアジサイを写真に収めつつ山道を進むと野外ステージが現れた。緑の中にベンチが連なる。音楽イベントにうってつけの場のように映った。さらに歩いた先には土地の起伏に合わせて十数戸の宿舎とセミナー室がひとかたまりで建つ。
同様の建物群がかつてはいくつもあったが、利用者の減少と老朽化で2006年に多くが取り壊された。訪れるとわずかに残る建物に往時の雰囲気が感じ取れる。
東京都美術館が「建築ツアー」 夜間実施も
東京都美術館は奇数月の第3土曜日に建築ツアーを催している。一般公募で選んだガイドがそれぞれオリジナルのコースで同館の建築としての魅力を解説する。特別展などで開館時間を延長している際は夜間ツアーもあり、次回は7月22日、29日に開催する。
ル・コルビュジエの弟子の建築家はほかに坂倉準三(1901~69)がいる。現存する代表作は神奈川県立近代美術館(鎌倉市)や新宿西口駅本屋ビル(新宿区)などがある。
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