ブルックリン
移民女性の毅然とした美
第2次大戦後の好況が続く1950年代アメリカ、ニューヨーク市ブルックリンへ職を求めて移民したアイルランド人女性が、努力と決断を重ねて成長する様子を語ってすがすがしい。
2009年に出版されたコルム・トビーンの同名小説を原作に、シリアスな社会派作品『BOY A』(07年)で注目されたジョン・クローリーが監督。アメリカが移民によって作られた国であることをあらためて感じさせられた。
姉の勧めで職を求め、大西洋を越えたアイルランド娘のエイリシュ(シアーシャ・ローナン)はブルックリンの女子寮に住み、高級デパートの販売員として働き始める。姉からの手紙に故郷を思い、涙しながらも神父の勧めで夜学に通い、貧しいイタリア移民の息子トニー(エモリー・コーエン)と恋に落ちた。
そんなときに姉の死の知らせが届く。一人暮らしの母の元へ帰省したエイリシュは、恵まれた家庭の息子ジム(ドーナル・グリーソン)に再会した。新天地で職を得て、大学で学んだ娘はレモン・イエローのワンピースに身を包み、映画の中のマリリン・モンローのようなサングラスで颯爽(さっそう)と町を往く。好意を寄せるジムの愛を受けるか、それともトニーとの結婚に賭けようか、と気持ちは揺れる。
生まれ育った故郷で安定を求めるか、ブルックリンに戻って同じ移民同士、トニーと彼の兄の計画に将来を託そうか。親の財産で生きる男か、自分で将来を掴(つか)み取ろうとしている男か。
ジョン・クローリー監督は、細やかな描写で移民という大胆な道を選んだ女性の心情を見つめる。ここでは1950年代の映画でよく見た少し脂の乗った柔らかな肉体の女性を思わせるシアーシャ・ローナンの肉体と、毅然とした表情を持つ美しさが生きて、こういう女性が新しいアメリカを拓(ひら)いてきた、と思えてくる。1時間52分。
★★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2016年7月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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