海藻で暑い夏を乗り切れ 塩分うまく調整、胃腸守る
暑さで胃腸の消化機能が衰え食欲も落ちると、喉越しがよいそう麺など炭水化物中心になりがちだ。「ますます必要な栄養素が足りなくなる。海藻で上手に補ってほしい」と話すのは、食文化研究家で自然食品の開発や販売を40年以上手掛けるTAC21(神奈川県逗子市)の田耕邦子社長。
減塩食のお供に
海藻の主な成分は食物繊維とミネラルだ。実は食物繊維の量は野菜にも負けない。ほかに体内で効率よく必須アミノ酸になる良質のタンパク質、魚ほど多くはないが動脈硬化予防で知られるEPA、脳の働きに関わるアラキドン酸も含まれる。
夏バテ予防に欠かせないのは身体の機能を維持・調整するミネラル。なかでも一般的に最も多いのがカリウムで、ナトリウムと共に細胞の働きに欠かせない存在だ。他にカルシウム、マグネシウムも含む。カリウムには余分な塩分(主な成分はナトリウム)を体外に出す作用もある。塩分を取りすぎると高血圧や脳卒中のリスクが高まるため、カリウムとナトリウムのバランスは重要だ。
北海道大学大学院水産科学研究院の宮下和夫教授は「減塩食は味が薄く食欲が落ちがち。海藻粉末を加えればうまみが加わる」と話す。同大大学病院は海藻粉末入りの病院食の開発を始めた。
海藻が夏に動きが鈍りがちな腸の働きを助けることも期待できる。海藻に多く含まれる食物繊維は腸内の悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整える。「腸の調子がよくなると腹持ちがよくなり食べ過ぎも抑えられる。脂質や糖の代謝も上がり、糖尿病や高脂血症になりにくくしてくれる」(宮下教授)という。
海藻を刻むと出る粘り成分の正体は食物繊維だ。特にアルギン酸はコレステロール値の改善や血圧上昇抑制、重金属排出作用があるとされる。同じく粘り成分フコイダンには、がんやアレルギーを抑えたり、血液を流れやすくしたりする働きがあると分かっている。
海藻はいろんな種類があるが、栄養価が高くこの数年注目されているのが「アカモク」だ。昆布やワカメ、ヒジキ、モズク、メカブなどの仲間の褐藻類(かっそうるい)。船に絡まり「邪魔モク」と呼ばれ捨てられていたが、東北地方の一部では「ギバサ」「ギンバソウ」と呼ばれ、食べられてきた。この数年は「栄養価の高さから、東北だけでなく湘南地域など各地で食用として見直されている」(田耕社長)。
クセのない味
アカモクに突出して多いのが色素の一種「フコキサンチン」だ。宮下教授らは約10年前にこの色素の「肥満予防効果」を発表した。体重が90キロ以上のロシア人の肥満女性に成分入り食品を16週間食べてもらったところ、食べない人より体重が減ったという。余分な体脂肪がたまりにくくなるほか、糖の消費吸収を上げ、糖尿病のリスクも下げると期待できるという。
この色素の抗酸化力も注目されている。体内で活性酸素が異常に増えるのを抑え、老化予防や動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞などの疾病予防に役立つと考えられている。
さて海藻はどう食べるといいのだろう。大量に海藻ばかり取るのは勧められない。普段の食事に少しずつ加えてみよう。アカモクはゆでて冷水で粗熱をとり、刻むと粘りがでる。酢を加えて食べてもよいし、クセがないので納豆に混ぜるほか、ハンバーグのつなぎやサラダの具材、麺類のトッピングにしてもいい。
アカモクは昆布やワカメと同様、乾燥した物や顆粒状の加工品があり、年中手に入る。「スープに加えると、うまみ成分でワンランク上の味に仕上がる」(田耕社長)
夏は「海藻風呂もお勧め」(同)だ。好みの海藻を水洗いし、沸騰した湯に軽くくぐらせて消毒。目の細かい洗濯ネットなどを2重にして入れ浴槽に沈める。「強い紫外線やエアコンでダメージを受けた肌に潤いをプラスできる」(田耕社長)。「アカモクなど褐藻類の粘り成分は肌の乾燥を防ぎ、保湿する力がある」(宮下教授)。洗い流しても、保湿効果はしばらく持続できるという。
海藻パワーで体の内と外から健康作り。暑い夏を上手に乗り切りたい。
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甲状腺機能に障害なら食べ方注意
毎日海藻を食べても大丈夫なのだろうか? 過去の研究では、閉経後の女性が毎日食べると、甲状腺がんのリスクがそうでない場合より4倍高くなるとの報告があった。
コンブなどのヨウ素を材料に体の新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンは作られる。日本人は取り過ぎが心配されてきた。
だが昨年発表された研究で、毎日でも週1~2回でも甲状腺がん発症率には影響が無かった。閉経前後の日本人女性約3万6000人を1988~2009年に追跡した。「信頼のおけるデータ。通常の食生活では問題はない」(宮下教授)。ただし、甲状腺機能障害で通院している場合などは、医師に相談しよう。
(ライター 結城 未来)
[日経プラスワン2016年6月25日付]
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