綾野剛「日本で一番悪い奴ら」 悪徳刑事を生々しく
日本映画で刑事というとコツコツと地道な捜査にいそしむ、職人的イメージが伝統的。でなければ、まんが的な(実際にまんがが原作のものも多い)破天荒な行動をする刑事(この場合"デカ"とよむ傾向あり)。
アメリカ映画や香港映画のように、刑事や警察組織の腐敗をおもしろく映画にすることは、あまりない。
「凶悪」(2013年)で市井にひそむ凶暴な犯罪者をえがいた白石和彌監督によるこの映画は、日本映画にはめずらしく、警察組織に内在する悪と、悪徳刑事のやりくちを、なまなましくえがき出す。
北海道警察で不祥事をおこし、懲役9年の刑に服した稲葉圭昭がかいた「恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白」(講談社文庫)をもとに、池上純哉が年代記じたてのフィクションにした。
綾野剛演じる諸星要一は、大学柔道部での活躍を買われて、補導歴があるのに、76年、北海道警に就職。道警柔道部を全国警察柔道大会で優勝にみちびく。
79年、機動捜査隊に配属された諸星は、ピエール瀧演じる先輩刑事から、業績をあげるためには、まずエス(S=スパイ。情報提供者)をつくれと教わる。この先輩は不祥事で逮捕されてしまうが、諸星は裏社会とさかんに接触し、エスをつくる。やくざの組幹部、黒岩(中村獅童)とは兄弟分の契りもかわす。
警察での点数は上がっていくが、拳銃摘発のために、ロシア船員から買いとったり、覚醒剤密輸を見のがしたり、本末転倒な捜査手法になっていく。当初あったはずの諸星の正義感は、20数年をへて、世紀がかわるころには、すりへっていた。
素材の興味と展開のはやさで、おもしろく見せる。ただ、深みがたりないうらみがのこる。
最近、初のヌード写真集を出した矢吹春奈が、諸星の愛人役で出演、映画でもヌードを見せている。2時間15分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年6月24日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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