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北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返しているわね。先月は朝鮮労働党の党大会もあったらしいけど、なぜそんなに強硬姿勢を続けているのかな。

最近の北朝鮮情勢について、坂東橋なおさん(44)と長谷川由布子さん(43)が池田元博編集委員から話を聞いた。

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)氏の肩書が変わったそうですね。

「金正恩氏はこれまで朝鮮労働党の『第1書記』という肩書でしたが、今年5月、党大会を36年ぶりに開き、新設した『党委員長』に就任しました。祖父の金日成(キム・イルソン)氏、父の金正日(キム・ジョンイル)氏に続いて3代目の世襲独裁体制を築いている正恩氏に箔を付ける狙いがあったのでしょう」

「北朝鮮の建国の父である金日成氏は、海外での評価は別として、北朝鮮国内では尊敬を集めていました。一方、孫の正恩氏まだ30代前半と若いこともあり、国民の支持が盤石とはいえません。そこで、金日成氏が『党中央委員会委員長』という肩書を使っていたのに倣ったと考えられます。これまで人民服姿が多かった正恩氏が、党大会では背広を着てメガネ姿で登場したことも、かつての金日成氏のイメージを国民に思い起こさせようとしたのかもしれません」

党大会の少し前から、北朝鮮の核実験やミサイル発射が相次ぐなど強硬姿勢が続いていますね。

「北朝鮮は今年1月に核実験を実施し、従来の原子爆弾よりもはるかに強力な水素爆弾の爆発に成功したと発表しました。実験時の地震データなどを分析すると、実際には水爆ではない可能性が高そうですが、あくまで核開発を進めようとする姿勢を国際社会に印象づけました」

「2月には米国本土まで届く能力があるとされる長距離弾道ミサイルの発射実験に成功しました。北朝鮮自身はミサイルでなく『人工衛星』の打ち上げだと主張していますが、米国を直接攻撃できる能力があると誇示する狙いとみられています。その後も短距離ミサイルや中距離ミサイルをどんどん発射しました。米国と韓国の合同軍事演習に反発したためという側面に加えて、党大会を前に金正恩氏の威光を国内向けに示す狙いが大きそうです」

「今回の党大会では、金正恩氏が掲げてきた『並進路線』というスローガンを党規約に正式に盛り込んだというニュースもありました。これは核開発と経済建設を『並進』させることで北朝鮮を『核大国』にしようという考え方です。米国は北朝鮮が核開発の放棄に動かない限り、経済制裁解除などの交渉には原則として応じない方針を示しています。それに対して北朝鮮が強硬姿勢を続けるのは、米国との敵対関係を国民に印象づけ、国内の不満を米国に向けさせる狙いがあるのでしょう」

日本をはじめ国際社会はどう反応していますか。

「北朝鮮による日本人拉致問題を解決しようと、日本の安倍政権は昨年まで北朝鮮と独自に交渉して制裁の一部緩和などに動き出していました。しかし核実験に加えて、拉致問題解決への道筋も不透明になったことから、安倍政権も再び制裁強化に転じています。韓国も北朝鮮の開城(ケソン)工業団地での南北共同事業を停止するなど強硬姿勢を取りました」

「国連安全保障理事会は北朝鮮に対して航空機用燃料の禁輸など追加的な経済制裁を決議しました。これは実質的に米国と中国の話し合いによって決まりました。中国は歴史的に北朝鮮との関係が深く、北朝鮮にとって最大の貿易相手国です。そのうえ安保理常任理事国のため、中国が拒否権を発動すると制裁を決議できません。北朝鮮の現体制を維持したい中国も、核開発に対しては苦々しく思っているので、最終的には米中の妥協で制裁が決まりました。ただ、中国が実際にどれだけ厳しい姿勢を取るかはわかりません」

今後の北朝鮮はどうなりそうですか。

「北朝鮮の経済がかなり厳しい状況にあり、大多数の国民が苦しい生活を強いられていることは間違いありません。経済を立て直すためには外資導入など対外開放路線を取るしかないと考えられますが、それは現体制の崩壊につながりかねないもろ刃の剣でもあります。金正恩氏がどうやって『経済建設』を進めるつもりなのか、まったく見通せません」

ちょっとウンチク


後ろ盾の中国も手を焼く
 中国と北朝鮮の関係は伝統的に「血で固めた友誼(ゆうぎ)」と呼ばれる。かつて朝鮮戦争をともに戦ったからだ。
 朝鮮戦争は1950年、半島の武力統一をめざす北朝鮮がソ連と中国のお墨付きを得て起こした。
 だが、中国はこの戦争に当初は後ろ向きで、自らの参戦も直前までためらった経緯が旧ソ連の秘密文書公開などで明らかになっている。中国の毛沢東主席は休戦後も指導者として居座る金日成氏への不満を漏らしていたという。中国は当時から、北朝鮮の暴走に苦虫をかみつぶしていたわけだ。
 中国は現在、北朝鮮のほぼ唯一の後ろ盾とされ、原油や食糧供給などを通じて金正恩体制を支えている。しかし、両国の関係が一筋縄でいかないことは、歴史的経緯からみてもうかがえる。
 習近平国家主席は今月初め、訪中した北朝鮮要人と約3年ぶりに会談した。核開発の自制を促したものの、全く耳を貸そうとしなかったという。北朝鮮に手を焼く国際社会。中国も例外ではないようだ。
(編集委員 池田元博)

今回のニッキィ


坂東橋 なおさん 主婦。ほぼ毎日テニスを楽しみ、全国各地で開催される大会にも参戦している。「ケガをしないように楽しくテニスができれば、と考えています」
長谷川 由布子さん 生保勤務。中国人留学生に日本語を教え始めた。「日本語でなぜそう表現するのか、うまく説明できないことが多くて自分も勉強になります」
[日本経済新聞夕刊2016年6月20日付]

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