急な発熱、どう対処する? 小さな子は十分に水分を
「発熱には、環境で上がる場合と、体の反応で上がる場合の二通りある」と話すのは、東京医科大学病院救命救急センター長の織田順准教授。
前者の例は熱中症だ。この場合はすぐに体を冷やし、熱を下げなくてはならない。「体温の異常上昇(目安は40度以上)を放置すれば、臓器の機能が悪くなる」(織田センター長)からだ。悪寒がした場合でも「冷却し、水分補給を。重症なら医療機関へ」(同)。
判断に迷うのは後者だろう。感染症や一部の脳疾患、ケガなどで熱が上がる場合だ。「ウイルスなど病原体が体内に入ると細胞が反応し、脳の命令を介して平熱より熱が高くなる。熱を上げることで、ウイルスを増えにくくするためだ」(同)
心地よさも基準
ならば、高熱でも冷やさなくてよいのだろうか。「脳が39度まで熱を上げようと判断したら、37度でも悪寒がして震える。この場合は体を温めた方が良い」と織田センター長。急に熱が出たからといって体を冷やすと本人は寒すぎて辛い。基本は「寒くて震えている時は保温、暑くなったら冷やす。どちらが気持ちいいかで判断する」(同)。
体を保温する場合は、通気性のいい掛け物を掛ける。冷やす場合は、動脈が比較的皮膚表面近くを通っている両脇、太ももの内側のつけ根(そけい部)、首側面辺りの頸(けい)動脈の上を冷やすのが効果的だ。市販の冷却枕などを当てる場合は、タオルを1枚巻いたほうがいい。熱を下げる効果は薄いが、額を冷やすと気持ちがいい。
このときに忘れてはいけないのが十分な水分補給だ。ナトリウムイオンやカリウムイオンといった電解質入りで、体液に近い成分のスポーツドリンクなどがいい。特に子どもの場合は欠かせない。とりうみ小児科(千葉県白井市)の鳥海佳代子院長は「子どもは体が小さく脱水症状を起こしやすい。小さい子であればあるほど、水分は少量を頻繁に取って」と話す。
解熱剤など薬の使用はどうだろう。「解熱剤を使用して熱を下げると一時的には楽になるが、体が熱を発する期間は短くはならない。逆に熱を下げている分だけウイルスが増えやすくなるため長引くこともある」と織田センター長。
解熱剤は飲み薬のほかに座薬もある。座薬は直腸から直接吸収されるので効き目が早い。大人の場合、早く熱を下げたい時や、喉が痛くて口から飲めない場合に処方される。「子どもは薬が苦いと口から出してしまうので座薬を使うことが多い。必ず子ども用の解熱剤を使うこと」(鳥海院長)
尿が濃くないか
発熱を放置してはいけない深刻な病気が潜んでいることもある。見極めのポイントは、まず、尿の色が濃くなり、回数が減っていないかどうか。極度の脱水が疑われる。うわ言を言う、受け答えがはっきりしないなどの意識障害は脳炎の可能性がある。呼吸が苦しそうでヒューヒューと音がする場合や爪の色や唇の色が悪いのは、気道、呼吸器系の病気の可能性が高い。「これらの症状が出たら救急車を呼んだ方がいい」(織田センター長)
子どもなら、これらの症状のほかに、発熱に伴って起きる熱性けいれんにも気をつけたい。「ほとんどの場合は5分ほどで治まるので、平らなところに寝かせて落ち着いたら受診を」(鳥海院長)。「ただし2回繰り返す、けいれんとけいれんの間に意識を失う、5分以上治まらないなら、細菌性髄膜炎などの可能性もあるので救急車を呼んで」と話す。
発熱時の対処も重要だが、普段から自分の平熱を正しく把握しておくよう心掛けたい。脇に挟む体温計が主流だが「きちんと計測できていない人が多い」とテルモのホスピタルカンパニーの前田綾さん。
まず使う電子体温計が実測式か予測式かを確認しよう。予測式は数十秒程度で計測できるが、実測式は10分間ほど必要。実測式を間違って早く外さないように。計測方法は図の通り体温計によって違う。体温は一日の中でも朝、昼、夜と変動する。普段の体温を知っておくと、発熱時にどれぐらい高いかわかる。
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風邪は汗かいて治すのが基本だが…
東洋医学では熱にどう対処するのだろう。目黒西口クリニックの南雲久美子院長は「風邪で熱が出た場合は、無理に薬で下げようとせず、水分を十分に取りながら、汗をかいて治すのが基本」という。ただし「40度近い熱は別。インフルエンザや他の病気の場合もある。漢方だけに頼らず西洋医学と併用する。適切な切り替えが大切」(南雲院長)。
漢方薬の正しい知識も求められる。「間違いがちなのが風邪のひき始めには葛根湯という考え」(南雲院長)。せきが出る場合は使用せず「柴胡という生薬の入ったものを症状に合わせて使う」。迷ったら、薬局薬剤師や医師に相談しよう。
(ライター 巴 康子)
[日経プラスワン2016年6月18日付]
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