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暮らしの知恵

中はモダンな京町家 部分改修で住みやすく

2016/6/15付 日本経済新聞 夕刊

 木造の伝統工法を使った町家を改修して住むことに関心が高まっている。町家は一度取り壊してしまうと、現在の建築基準法に準拠しなければならず、新築で再生はできない。一部改修にとどめることで、純和風の良さを生かしながら個性的な住宅にすることができる。改修のポイントを探った。

部分改修した京町家でくつろぐサイモン・バウマーさん夫妻(京都市左京区)

 京都市左京区の住宅の一角。車一台がやっと通れる路地に面し、古く趣のある木造2階建ての町家がある。敷地187平方メートルほどの大きさで、改修を終えたばかり。IT(情報技術)企業の役員の米国人サイモン・バウマーさん(32)夫妻が暮らしている。

 間口が狭く奥行きが深い建物の奥には中庭があり、この庭を囲むように和室、ダイニングキッチン、トイレなどが配置されている。どの部屋からも和風の中庭を眺めることができ、床の間や欄干、木造の梁(はり)にレトロな味わいがある。

 サイモンさんの町家は柱や梁など建物の構造にはほとんど手を入れず、内装の傷んだところなど一部改修にとどめ、町家の雰囲気を最大限に生かした。町家の改修には2千万~3千万円かかることがあるが、改修を必要最小限にすることで、費用は1500万円程度にとどめることができた。

システムキッチンに取り換え、簡易なカウンター式のテーブルを用意した

 町家で快適に暮らすには、キッチン、風呂、トイレなどの水回りの改修が重要になる。「伝統的な住宅を保ちつつ、キッチンはモダンにしたいという妻の意見を取り入れた」とサイモンさん。古い金属製の台所の水回りはシステムキッチンに取り換え、朝食などをとれる、簡易なカウンター式のテーブルを用意した。

 一方、2階の和室の寝室は布団収納の押し入れをトイレに改造した程度で、和風の風情をそのまま維持している。「窓を開ければ風がすっと通り抜け非常に快適だ」とサイモンさんは満足げに話す。

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 町家の販売を仲介したのは京町家専門の不動産会社八清(京都市)だ。古い町家を買い取って、改修のデザインを提案して販売し、管理も受託する。「京町家の魅力にひかれ、首都圏や海外の人に人気が出ている」(西村直己専務)という。

 京町家は木を組み合わせてつくる伝統工法を使った住居で、1950年以前の建築基準に沿ったものを総称している。耐震性は現代の基準を満たすものではないので、手入れをしっかりして最低限の免震性を保つ努力が必要になる。住む場合は専門家に確認しておきたい。鉄筋などを使った近代建築が頑丈さで耐震性を維持しているのに対し、町家は五重塔のように木造の柔軟性を生かして免震する。

 高齢化で古い町家を手放すケースが増えており、年々取り壊されてマンションや駐車場になることがある。だが、町家は一度壊してしまうと同じ建ぺい率や工法で再建できず、改修という形でしか保全できない。町家専門の会社に依頼して物件を探したり、購入後にデザイン設計を依頼したりするのも一手だ。

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 京都市内だけでも複数の専門会社があり、個人の趣味や嗜好に合わせた改修ができる。町家専門の不動産会社エステイト信(京都市)は町家によくある土間を、陶芸が趣味の人がワーキングスペースとして使えるようにしたり、日曜大工ができるガレージを備えたりした町家を提供。独自に改修した物件を用意している。

 町家を改修して活用する取り組みは、京都以外でも広がっている。金沢市では町家の改修の際に住宅用で400万円を補助するほか、町家を手放すオーナーと買いたい人をマッチングする事業に取り組む。また、町家情報バンクとして、ホームページを通じて、町家の物件情報を一括で見られるようにしている。

 東京でも、スピーク(東京・渋谷)が中核となって運営する不動産サイト「東京R不動産」が町家風の古い建物を基にしたレトロなリノベーション物件を紹介しており、人気を集めている。古き良き日本の伝統の住宅をうまく改修しながら、個性の光る家として上手につきあっていくのもいいかもしれない。

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■クギ使わない伝統工法
 京町家とはクギなどを使わない伝統工法を使った住居で、京都市に4万8千あるとされるが、年2%のペースで減少している。一度壊してしまうと昔ながらの工法で新築することができないので物件としても貴重になっている。

(京都支社 渡辺直樹)

[日本経済新聞夕刊2016年6月15日付]

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