キッチンに眠る食材、覚醒のレシピ
刻む・代替品で新味生む
我が家には使っていない食材がどれくらいあるのか調べてみた。収納棚には未開封のフォー(米麺)、切り干し大根がある。乾物は賞味期限が長いから置きっ放しだった。頂き物のお吸い物詰め合わせは半年近く手をつけていない。さらに奥を発掘すると缶詰が10缶ほど。ツナやコーン、アンチョビーなど何かに使えるはずと常備した物だ。
他にも芽が出たジャガイモ、皮が黒ずんだ使いかけのニンジンなど全部で30品目以上。1週間くらいなら買い物に行かなくても暮らしていけそうな分量だ。賞味期限ギリギリの物もある。どうしたらおいしく食べ切れるだろう。
アイデア持ち寄り 余り物だけで完結
「サルベージ(救出)パーティーをやってはどうか」。そう話すのは一般社団法人フードサルベージ(東京・杉並)の平井巧さんだ。行き場のない余り物食材を持ち寄り、調理方法を考えながら作って食べる会のこと。本来は料理人がアイデアを紹介しながら進めるという。素人でもできるだろうか。
平井さんの唱える成功の3カ条の1つが「三人寄れば文殊の知恵」。1人では飽きたり苦痛に思ったり限界がある。友人や家族と楽しみながらやるのがコツという。ママ友らに声をかけると皆悩みは同じ。とにかくやってみよう。
「家だとついレシピ検索しちゃうよね」。食材を前に、アイデアが飛び交うわけもない。それでも成功のための第2条は「レシピは卒業」。スマートフォン検索はご法度だ。レシピ頼みの調理は慣れない食材を使い、在庫が増える原因になる。ため息交じりに米麺を手に「パクチーや鶏肉があればなあ。フォーができるのに」。フォーは鶏や牛のだしが利いたスープが決め手。しかし冷蔵庫にはない。
第3条「食材の買い足しは厳禁」が私たちの発想を縛り付ける。食材を使い切るためなのに追加購入してしまっては、新たな在庫が増えるだけ。でも、のりのつくだ煮や切り干し大根ではメニューが思い浮かばない。「ねえ味見してみようよ」。八方ふさがりを破るべく一つ一つ味を確かめていく。
頂き物のお吸い物詰め合わせは、ふぐやふかひれのだしの味がしっかりして、ユズの香りが上品だ。「これならフォーに合いそう」。完成した和風フォーは満場一致でおいしい認定が出た。
切り方で味に変化 缶詰はダシがわり
ごはんのお供に頂いたニンニクの味噌漬けは生の食感が苦手で、冷蔵庫に眠っていた。「確かに、こりこりした歯触りは邪魔」と友人らも同意見だ。「子供向け料理で苦手な野菜を刻むように、刻んじゃおうか」。変色したニンジンもニンニクの味噌漬けも、みじん切り。チャーハンの具にしたら深みのある味になった。食感や味に癖のある物は刻んだり下ろしたり形状を変えると、印象が変わって活用しやすいと実感した。
芽の出たジャガイモには皆手を出せずにいたが、芽を取り厚く皮をむき、千切りにして焼けばガレットになるかな。「これどうする?」とノーマークのひよこ豆の缶詰があった。いっそまとめて料理してはどうか。両方フードプロセッサーでつぶし、小麦粉と混ぜてフライパンで焼く。パンケーキは冷めてもおいしく子供のおやつにいい。
切り干し大根は「煮物にしか使わないなあ」との意見が相次いだ。おいしくて栄養価も高いが応用が利かない。水で戻すのも手間だ。ブツブツ言いながら戻し途中の切り干し大根を食べてみると「シャキシャキしておいしい」。この状態でポン酢やマヨネーズであえても良さそう。
さらにもう1品食材を消化できないかと、切り干し大根はツナ缶とゴマ油でいためてみた。シャキシャキ食感の切り干し大根にツナのコクのある味は本当に相性が良い。実は公認サルベージ・シェフの吉田舞さんのパーティーに事前に参加し、秘伝を授かっていた。「缶詰はうまみが凝縮しているので、ソースやドレッシングなどの調味料になるんです」。これは使える。
サバ缶とトマト缶を取り出し、ニンジン、ジャガイモと一緒に煮る。火にかけたのは30分ほどだが、うまみはしっかり出ている。
2時間ほどで完成した料理は5品。パーティーはおなかも主婦の自尊心も満たした。毎日の食事作りはついつい定番レシピに頼りがちだが、自分でメニューを考案するのは刺激的。子どもたちと一緒にやれば食育にもなる。月に1度、食材の棚卸しや頭の体操を兼ねてのサルベージ・パーティーを続けてみよう。
贈り物、もらい手目線で
今回の体験で贈答品の落とし穴を知った。日ごろの買い物は少量ずつ買う工夫をできるが、頂き物はそうもいかない。相手は良かれとくれた物でも、食べ慣れない物や量が多い物は食べきれず、捨ててしまうこともある。
自分自身も何かのお礼や手土産に、消え物ならば無難と菓子などを選びがち。夏に向けてお中元に旅行土産と贈り物をする機会が増える。お中元で人気の乾麺はサルベージイベントのレギュラー選手だという。
改めて量や好みなど、相手の負担にならない贈り方を考え直したいと思う。もらってしまったものは……刻んで活用しよう。
(松原礼奈)
[日経プラスワン2016年6月11日付]
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