教授のおかしな妄想殺人
意地悪ウディ・アレン健在
1935年生まれ。1960年代終わりから年に1本以上は撮り続けるウディ・アレンの新作は、脚本と監督に専念した犯罪コメディ。人生に退屈する大学の哲学科教授が見つけた生きる喜びとその行きつく果てを描く。
演技派で鳴らすホアキン・フェニックスが、15キロも増量してたるんだ体形で演じるのが米東部の大学に着任した哲学科教授のエイブ。パーティーの席で噂の変人ぶりを発揮すればお嬢さま育ちの女子学生ジルが彼に熱をあげた。インテリに弱い女子学生とそれを知り尽くした教師のよくある学園風景が出現する。ジル役エマ・ストーンはウディの前作『マジック・イン・ムーンライト』で男心を手玉にとった。エイブの同僚の女性教授も彼に興味津々で誘惑の手を伸ばす。
そんなある日、一人の女性が意地の悪い判事に苦しんでいるのを耳にしたエイブは、判事の殺害を思いつく。これぞ人助け、とばかり準備を重ねるうちに退屈は消えて計画は大成功。嬉々(きき)としてジルに報告した。
ところがお嬢さまはエイブが予想もしなかったことを言い出した。警察に行きましょう、私が支えるから、だなんて、そんなバカな。
40年以上にわたり、独創的な脚本とユダヤ人特有の辛辣さで見る者を挑発するコメディを作ってきたのがウディ・アレン。彼の生み出す男たちは不道徳で罪の意識を持たず、人を騙(だま)して驚かせる手品が大好き。
その姿にはどう考えても長年自分の書いた人物を魅力的に演じてきたウディ自身の心情が投影されているように見えるが、そんな映画作家が殺人を得々と自慢する妄想男エイブをどう扱うのか。そこを見どころにして迎えるフィナーレにのぞくのは齢80歳にして見せるウディ流の反省?
罪には罰を与えるかそれとも勝利の喜びか。老いても意地の悪さは変わらない。1時間35分。
★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2016年6月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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