団地
奇妙でドライな笑い
傑作「顔」(2000年)の監督=阪本順治、主演=藤山直美が、ふたたびコンビを組んだ。
ラジオから浜村淳の声がながれる、大阪近郊の公営団地。山下ヒナ子(藤山直美)が、夫の清治(「顔」にも出ていた岸部一徳)とともに、5階建てエレベーターなしの3階の部屋に越してきて、まだ数カ月。以前は漢方薬局の店をかまえていたが、ワケあって……。
以前の顧客、真城(しんじょう)(斎藤工)という青年が、ここをさがしあてて訪れる。清治の薬が必要だという。
この青年、ご無沙汰でした、と言うべきを五分刈りでした、と真顔でまちがえたり、動作もぎこちなく、なにかヘン。
いきなり登場のヘンなキャラクターのおかげで、あとから登場する石橋蓮司、大楠道代、宅間孝行、濱田マリ、竹内都子ら、団地の住人たちも、すくなからず異化されて、普通のコメディーよりも距離をおいて、いわば奇妙な惑星の生きものの生態をながめるようなおかしみを帯びる。
無機質な色彩と構図――無声喜劇や、ある種のヨーロッパのアート系映画のように、全身をいれる引きの絵が多い――が、そのドライな笑いをたすける。
清治は、ある一件後、床下の収納スペースにひきこもり、ヒナ子に殺されたのではという噂がひろまる。
ここいらまでの奇妙な味の笑いは、役者たちの好演もあって、好調。この先、どうなっていくのかとワクワクさせる。
すると――これも真城のえがきかたがヒントだったのだが――終盤は、SFに転調する。
くわしくはかかないが、そこからが長く、ウェットで、そこまでのコメディーのいい風味をすべて帳消しにするまで、なくもがなの世界観(異世界観?)のリクツをならべる。
オチで遊びすぎて、元も子もなくなった。1時間43分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年6月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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