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AIが導く進化 将棋ソフト、プロが戦略分析に活用

2016/5/31 日本経済新聞 夕刊

電王戦第2局で山崎隆之八段(右)は見せ場なく将棋ソフトに敗れた(22日、大津市の比叡山延暦寺)

 プロ棋士と将棋ソフトが戦う第1期電王戦は山崎隆之八段の2連敗で終わった。進化し続けるコンピューターの棋力が人間を上回ったのか。両者の関係は新たな段階に入りつつある。

 プロ公式戦の第1期叡王戦でタイトル保持者らを破って電王戦二番勝負に登場した山崎八段が、将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」に見せ場なく力負けした。「強い相手と思って意識してしまった。自分の実力の足りないところが露呈し、完敗だった」。大津市の比叡山延暦寺で指された第2局の終了直後、山崎八段は唇をかみしめるように振り返った。

■一騎打ちで完敗

 過去3回の電王戦は5対5の団体戦でプロ側が昨年、初めて3勝2敗と勝ち越した。第5局で、プロ棋士が事前の研究で見つけたソフトの不備を突く戦い方で勝ち、論議を呼んだ。

 今年からはプロ棋士とソフトの代表の一騎打ちに衣替えされた。山崎八段は真っ向勝負を挑んだが、事前の練習対局では「終局まで通して指すと、ふつうの戦い方ではほとんど勝てなかった」と明かす。

 コンピューターの棋力は人間を上回ったのか。将棋ソフトに詳しく、昨年度のNHK杯将棋トーナメントで準優勝した気鋭の千田翔太五段は「どんな戦い方をしても、もはや強豪ソフトを相手に人間が勝つ確率はきわめて低い」と言い切る。

 「ソフトを使って、自分の棋力をどう向上させるかが焦点になっている」と千田五段。自身でも棋士同士の実戦で現れた難解な局面についてソフトに形勢判断をさせながら次の手を探ったり、強いソフト同士を対戦させた棋譜を並べて勉強したりする。

 ソフトの考え方を取り入れることで、将棋の進化につながる、との考えもプロ棋士の間で広がる。実際、将棋ソフトが指した手がプロの戦い方にも影響を与えるようになった。今回の結果を受け、棋士の将棋ソフトへの向き合い方も変わりそうだ。「今回、プロ棋士が2連敗したことで、来期はプロが挑戦する立場になる」と日本将棋連盟会長の谷川浩司九段は話す。

■羽生王座が参戦

 これまで公の場でコンピューターと対局することのなかった羽生善治王座(名人・王位・棋聖)が将棋ソフトと対戦する可能性も出てきた。電王戦の出場棋士を決める叡王戦に羽生王座が今年初めて参戦。トーナメントを勝ち抜けば、来春の第2期電王戦で将棋ソフトの代表と戦う。電王戦を主催するドワンゴの川上量生会長は「出場を望んではいたが、正直、体が震えた」と驚きを隠さない。

 羽生王座は以前、川上会長との対談で「(コンピューターとの対戦で)人が思いつかないような新手や新戦法が出てくることもあるのでは」と話していた。ソフトの進化は、常々「将棋の全容を少しでも解明したい」と語る第一人者の探究心にも火をつけたようだ。

◇     ◇

■囲碁では開発競争 企業と日本棋院、連携

 今年3月、米グーグルの開発した人工知能(AI)「アルファ碁」は、韓国の世界トップ級棋士、李世●(イ・セドル)九段を下した対戦で、随所で従来の常識を覆す手を打った。日本の囲碁史上初の七冠独占を達成した井山裕太王座も「コンピューターは人間界と違う世界が見えているのだろう。自分でも体感してみたい」と話す。

 ただ、アルファ碁は誰もが自由に使えるわけではなく、プロ棋士による研究や活用は進んでいない。一方で、日本やフランス、米国などの研究者は、グーグルが使った手法を用い、既存ソフトは急速に強くなっている。

 日本の囲碁ソフト「Zen(ゼン)」の開発者らはドワンゴや日本棋院と協力し、ソフトの強化プロジェクトを立ち上げた。「1年でアルファ碁に追いつく」(Zen開発チーム代表の加藤英樹氏)のが目標だ。ソフトの開発競争には米フェイスブックも参入。コンピューター囲碁に詳しい大橋拓文六段は「2年後にはプロが活用できるソフトが登場し研究も進んでいくだろう」と期待を寄せる。

(文化部 山川公生)

[日本経済新聞夕刊2016年5月30日付]

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