FAKE
膨らむ謎、監督の挑発
2年前に世間を騒がせた音楽家の佐村河内守のゴーストライター事件。釈明の記者会見以降、佐村河内はマスコミには顔を出さずに沈黙を守っている。そんな佐村河内のその後の生活にカメラを向けて、本当はどうだったのかを追いかけた森達也監督の新作ドキュメンタリーである。
「現代のベートーベン」と称賛された佐村河内の仕事が、実は同じく音楽家の新垣隆による作曲だったことを、新垣本人が告白したことから事件は明るみに出た。その上、佐村河内が楽譜を書けないこと、耳が聞こえないふりをしていることなどが非難された。
監督は夫妻の了承の下に彼らのマンションを訪れてカメラを回し始める。部屋のカーテンは閉められ、佐村河内は奥さんの手話に助けられて監督の問いかけに答えていく。その率直な質問に二人三脚のように応じる夫妻の等身大の姿には好感が持てる。
難聴に関する単刀直入の質問では医者の証明書を見せるが、マスコミが報道していないことが知れる。また作曲の際の構想メモなどが提示され、監督が新垣に取材を申し込んでも拒否される。誰が嘘をついているのか、何が本当なのか、謎は膨らんでいく。
映画は佐村河内が聴覚障害者に会いに行くシーンを除くとマンションの部屋が中心である。撮影の最中、外国のジャーナリストが訪れるシーンや、フジテレビのプロデューサーが出演依頼にくるシーンもあるが、総じてマスコミによる佐村河内バッシングが伝わってくる。
狭い室内の撮影のため、質問する監督の姿がしばしば画面に晒(さら)される。そんな監督と佐村河内のやりとりは、やがて監督の挑発に佐村河内が応じるラストの展開となって面白い。事件の謎はさらに膨らむが、真実は何かという問いを含めて映画の魅力に満ちている。1時間49分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2016年5月27日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。