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福島の木造映画館、閉館から半世紀経て復活のブザー

映画館主、田村修司

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NIKKEI STYLE

福島県郡山市からJR東北本線で15分ばかり電車に揺られると、本宮駅に着く。観光名所や旧跡があるわけでもない小さな街並みの裏路地に入ると、色あせたピンク色の木造建物が現れる。今年で築102年。我が映画館「本宮映画劇場」だ。

2008年6月8日。閉館から45年を経て、ようやく扉を開けることができた。むき出しのコンクリートに木製の椅子が96席。「ブー」とブザーを鳴らし、昔の映画の予告編とニュース映画集を上映した。観客が驚いたり、笑ったり。待ち焦がれた瞬間が、どれほどうれしかったか。

◇    ◇

 テレビ普及で業績悪化

 建物の誕生は大正時代の1914年。町の有志が資金を出し合って、公民館代わりに地元の集会場や、旅の一座の公演会場として使われた。映画を上映するようになったのは昭和の初めだ。

36年生まれの私が物心ついた時には父が館主を務めていて、映写機の操作法などを教わりながら育った。父はやがて建物の持ち主となり、松竹と新東宝の作品を上映した。いつも大入り満員。私と年の近い美空ひばりの出演映画では劇場の外に長い行列ができて、興奮したのを覚えている。

その父は日本映画全盛期の50年代に急死。20歳の私が経営を引き継いだ。でも映画界の斜陽と共に業績は下り坂に。人々の関心はテレビに移り、人気の映画も吉永小百合や石原裕次郎らが出演する日活や東映作品に変わっていった。私も洋画をかけて挽回を狙ったが借金がかさみ、63年にやむなく閉館した。

それから郡山市で車のセールスマンとして働き始めた。高度経済成長期で自動車は売れに売れ、63歳まで頑張った。映画館は絶対に手放さなかった。母に「劇場を処分して借金を返したら」といわれたが、定年を迎えたら再開すると決めていた。もう意地になって、車を売って稼ぎ、3年で借金を返済した。

◇    ◇

 妻の嘆きに言葉詰まる

 私はとにかく映画館が好き。たくさんの人が一堂に会して笑ったり、泣いたり。その後、感動の余韻を引きずりながら劇場を出てゆく観客の姿を見ることが生きがいだ。

映写機も年代物だ。57年製のカーボン式で、プラスとマイナスの2本のカーボンに電流を流して発光させ、その光で映像を映し出す。この映写機を操れる人は、日本にはもうほとんどいないのではないだろうか。しかも木造の建物に響く音は腹にずしんとくる。この感覚がたまらない。

会社員時代、休日はいつも映写機の手入れをした。フィルムを巻き取る部分に油を差して、すべて正常に動くか確認する。部品は買い替えがきかないので、常に完全な状態を保たなければならない。ある日、妻に「あんた、あたしと劇場とどっちが大事なの」と聞かれ、言葉に詰まった。妻は後は何も言わず、43歳の若さで亡くなった。

ようやく定年を迎えると、映画はシネコンの時代に入っていた。デジタル化で、映画もフィルムで撮るものではなくなった。もう、浦島太郎の気分。新作映画は私の映写機で上映できない。

さすがに潮時かと諦めかけていたところ、知り合いの眼科医から「劇場を見せてほしい」といわれた。せっかくだから映写機を回そうと提案したことが、08年の上映会のきっかけになった。当初は内輪でやるつもりが、噂が広がって一般の人も来てくれた。

以来、年に数回、無料の上映会を開いている。映画好きはもちろん、幼稚園児が来てくれたこともある。年に数回しか開かないのに、去年は300人以上が訪ねてくれた。ちなみに建物がピンクなのは、横浜の学生が塗ったからだ。もとはクリーム色なのだが、彼らの映画の撮影に「本宮映画劇場」を使いたいとやってきて、壁を好みの色に塗っていった。

◇    ◇

 古いフィルムかき集め

 上映作は、映画館を閉める最後の2年間に上映していた映画や、セールスマン時代に買い集めたフィルムだ。各地で映画館が閉館するたび、古いフィルムが出てくるのだ。一本の映画丸ごととはいかないが、米海兵が撮影した記録映画の一部や、60年代の歌手が歌っている映像、新作映画の予告編などがある。

最近は、もっぱらこうしたフィルムを編集して過ごしている。山本晋也監督のピンク映画「女湯」シリーズもその一つで、いつか山本監督に見てもらえたらと思う。

映画館の再開はかなわなかったが、たまに開く上映会で観客が楽しんでくれる。そんな光景を見て、天国にいる妻も喜んでくれたらいいなと思う。

(たむら・しゅうじ=映画館主)

〔日本経済新聞朝刊 2016年5月26日付〕

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