漫画「ゴールデンカムイ」(野田サトル)
冒険に歴史・グルメも満載
舞台は明治時代の北海道。元軍人がアイヌ民族の少女と共に、伝説の埋蔵金を追い求める。網走監獄の脱獄囚や旧日本陸軍、新撰組元隊士との壮絶な争奪戦を描いた漫画「ゴールデンカムイ」(野田サトル著、集英社)が売れている。2015年の1巻発行時から注目を集め、4月発行の7巻までで累計発行部数は220万部を超えた。
「週刊ヤングジャンプ」で連載。青年漫画としてはかなりのヒットといえるが、担当編集者の大熊八甲氏は「まだまだ。もっと伸びていい」と満足する様子はない。面白いと考える要素をてんこ盛りに詰め込んだ作品の質に、それほど自信があるという。
宝探しの冒険と激しい殺陣のアクションドラマが主軸だが、描写はそれにとどまらない。自然と生きるアイヌ民族の文化を描いたり、北海道開拓の歴史が学べたり、民族料理の調理法と味わいを紹介したり。教養とグルメの漫画としても読める。さらには謎解きやギャグの楽しさもある。
著者の前作「スピナマラダ!」が商業的に成功せず、今作では「多くの読者をひき付けるテーマを盛り込む」と方針を決めた。描き込む主題が増えたが、それぞれの相乗効果により物語が厚みを増した。例えば残酷な活劇シーンの後に一息つけるグルメの描写を差し込み、緊張と緩和のバランスを取っている。
大熊氏は「野田さんは俯瞰(ふかん)して漫画を描くことができる。全体の質を上げるため、様々な要素を計算ずくで入れられる稀有(けう)な作家だ」と語る。
単行本として売るための戦略も周到に準備した。週刊誌では各回で読者アンケートが行われ、低評価ならば連載打ち切りもあるため、1話1話に集中する作家が多い。それでは単行本の完成度を高められないと、連載スタート前に1巻に収める7話を描いた。2巻も読みたくなる起承転結の構成を熟慮。作品の重要人物で、歴史ファンに人気の高い新撰組副長の土方歳三を巻の終盤に登場させるなど、絶えず興味を持たせる仕掛けを各所に凝らした。
こうした戦略も功を奏し、1巻発売時から増刷を重ねた。今春、書店員らが選ぶ「マンガ大賞2016」で大賞に輝き部数は倍増。まだ物語は序盤で、佳境はこれから。快進撃は続きそうだ。
(諸)
[日本経済新聞夕刊2016年5月25日付]
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