過激に奔放に シンガー・ソングライター、大森靖子
若者の心情を過激かつ等身大に表現した歌詞が身上のシンガー・ソングライター、大森靖子(せいこ)の注目度が高まっている。インディーズ時代から徐々に人気を拡大し、今年発表した最新アルバムもオリコンランキングで最高19位に食い込んだ。
大森は1987年愛媛県生まれの28歳。高校卒業後に上京し、武蔵野美大在学中から音楽活動を始めた。高円寺のライブハウスなどで腕を磨き、現代の若者を描いた激情型の歌詞や喜怒哀楽を巧みに使い分ける変幻自在の歌声がインディーズシーンで話題になった。その独特の感性と作詞作曲のセンスが2012年ごろ、エイベックスの制作担当者の目に留まる。同社の山本未央氏は「ライブで場所の空気を支配する圧倒的なパワーがあった」と話す。
14年にメジャーデビューした大森の真価は、同年12月に発表したアルバム「洗脳」で早速発揮された。「絶対絶望絶好調」など韻や擬音、若者言葉を駆使したユニークな曲が並んだ。他人の経験談に自分の視点や言葉を織り交ぜたリアリティー、普遍性のある歌詞が音楽ファンの興味を引き、オリコンランキングで最高位18位となった。
この年はフジロックフェスティバル、ロック・イン・ジャパンなど有力フェスにも出演し、個性的な衣装、パフォーマンスを披露するなど知名度も急激にアップ。しかし、その状況で突如結婚を発表。昨年には第1子を出産し、私生活でも周囲を驚かせた。「周りに流されない奔放さも大森の魅力」(山本氏)
今年3月に出した最新作「TOKYO BLACK HOLE」は出産後初のアルバム。母となり「丸く」なるとの観測もあったが、むしろ言葉の過激さ、面白さに磨きがかかり、楽曲はよりポップさが際立つようになった。当初は言葉や歌詞のユニークさに注目した男性ファンが多かったが、「女性の気持ちを代弁してくれる」と、若い女性ファンが急拡大している。
自身の性体験や学校での苦悩、アイドルオタクぶりなど自身の足跡を詩人の最果タヒに対して赤裸々に語った「かけがえのないマグマ」(毎日新聞出版)も今年1月に出版された。今後は音楽活動はもちろん、ざっくばらんな言動も脚光を浴びそうだ。
(岩)
[日本経済新聞夕刊2016年5月18日付]
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