機能性下着、シニアの歩行支援 腰痛など改善も
「公民館の体操、習字や洋裁教室、歌の練習。毎日、外出で忙しい」。東京都世田谷区に住む杉原君子さん(82)の活動をサポートするのは特殊なガードル。膝と股関節周辺の筋肉に沿って当て布をし、足運びを安定させる。いわばテーピング効果のある下着だ。
4年前に膝を悪くし、かかりつけの医師に薦められて以来、着けている。背筋をピンと伸ばしスムーズに足を運び、腕もしっかり振って歩く。家に閉じこもりがちな同世代の人が多い中「外出は活力の源」(杉原さん)とはつらつと話す。
年を取ると、関節の変形や骨粗しょう症などで移動がつらくなるうえ、筋力やバランス力も衰えて運動不足になる。運動不足が症状をさらに悪化させ、転倒すれば骨折の危険性が増す。国も寝たきりや要介護になるのを防ごうと、ロコモティブシンドローム(ロコモ、運動器症候群)予防に取り組む。
機能性下着は、歩いて運動機能を維持しようとするシニアの強い味方として注目されている。ガードルだけでなく、背中や腰などの動きを支える肌着などもある。素材や当て布の伸び具合に工夫があり、高齢者が嫌う圧迫感など肌への負担を減らしているのも特徴の一つ。4月から左膝にサポーターを使い始めた横浜市在住の桜井清さん(66)は「綿が混ざっており、蒸れない。圧迫感もない」という。登山に再挑戦したいと意気込む。
ガードルは女性の物だと抵抗がある男性にもお薦めなのが、ジョギングランナーが着けるスポーツタイツだ。股関節と膝に筋肉の動きを支える当て布があり、機能性下着のガードルと同じ効果が期待できる。着脱しやすい柔らかな素材の物もある。
機能性下着は百貨店や専門店の介護用品コーナーで、スポーツタイツは運動ウエア売り場で手に入る。価格はガードルで5000~7000円ほど、タイツは1万円前後。筋肉や骨の動きを正しく助けるためには「サイズに合う物を身に着けることが大切。高齢者には肌が敏感な人が多い。必ず試着して肌触りも確かめてから選んで」(ワコール)と助言する。
どういう状態になったら機能性下着を意識するとよいのだろうか。既に膝痛や腰痛を抱えている人なら、根本治療にはならなくても改善が期待できる。
むろん、「まだ若い。歩いていて転んだこともない」というシニアもいる。プロ野球選手やJリーガーのリハビリと治療を手掛ける理学療法士の山口光国さんは「若いと思っている人も、直立し、かかとを連続20回上げてみて」と勧める。途中で前後によろけたり、20回できなかった人は「股関節の具合が黄信号。転ばぬ先のつえとして、着用してほしい」(山口さん)。
自分の歩く姿を鏡で見てみよう。背中を丸め、肩を揺らして、がに股になって足を広げていないだろうか。当てはまるなら着用を考えてみるといい。
歩行を支える下着やタイツは「自分の動いている方向と反対方向にバランスを取りやすくしてくれる」と山口さん。転倒予防にもつながるという。高齢者に多いのが、信号が赤になり、横断歩道の手前で止まろうとしたが止まれず、勢い余って転ぶことだ。そんな時も、倒れかけた体を引き戻しやすくなるという。
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65歳以上のけが 8割が住宅内
65歳以上の人がケガをする場所で最も多いのが、安全と思われがちな家庭内だ。国民生活センターが2013年にまとめた調査によると約8割が家の中だった。全国13医療機関に依頼し、10年12月から2年間に事故情報を集めた。
65歳以上の事故は669件で、77.1%にあたる516件の発生場所が「住宅」だった。具体的には、階段の段差でつまずく、足がもつれて家具にぶつかる、靴下がひっかかり転落したなど。若いころは問題無かった、ちょっとしたことが転倒・転落の原因になっている。
さらに、ケガの内容をみると、516件のうち骨折が2割を占めた。同センターは事故を防ぐため、歩行しにくいなどと感じたら「機能性下着をはじめ、使いやすく工夫された商品などの力を借りてほしい」と呼びかける。
(保田井建)
[日本経済新聞夕刊2016年5月12日付]
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