中国第二の大陸 アフリカ ハワード・W・フレンチ著
多くの移住者たち 本音引き出す
本書では、西アフリカで暮らす中国人実業家の次のような言葉が紹介されている。「中国人がいないところには、行っちゃだめですよ……中国人がいないってことは、金儲(もう)けができないってことだからですよ」
今、アフリカのどこに行っても中国人がいる。移住者の数は過去10年で少なくとも100万人に達したようだ。天然資源を買い付け、農地を買収する企業家たち。零細商店や小規模ホテルの経営者たち。中国政府はアフリカの友好国に壮大なスタジアム、道路、空港、病院を寄贈しているが、建設現場で汗を流すのは、中国人の下層労働者の大群である。
著者はアフリカ10カ国を自分の足で歩き、中国からの移住者たちの本音を聞き出した。出会った中国人の多くは、アフリカ人を怠け者や泥棒と見なしている。かれらは身内で固まり、地元民と交わろうとしない。愛のない偽装結婚まである。
本書に登場する中国人の多くは、現在の中国に閉塞感を感じ、成功を夢見てアフリカに渡った庶民たちだ。かれらの振る舞いはお上品ではないが、生きる迫力が伝わってくる。しかし、見下されて搾り取られる側のアフリカ人たちは、移民集団への警戒心と怒りを隠さない。
本書の記述に迫力があるのには理由がある。少しずるい気もするが、著者は中国語を話すので、中国人たちは心を許して正直な気持ちを語るのだ。他方で著者は、オバマ大統領と同じアフリカ系米国人でもある。先祖の大地への愛情が行間ににじみ出る。アフリカに来るのはいいが、地元の人間を尊重しろということだ。
中国人をアフリカに引きつけるのは、大量の地下資源だけではない。世界の未耕地の6割がアフリカに集中している。そして今世紀末になれば、アフリカの人口規模は中国とインドをあわせたよりも大きくなるという。著者はアフリカの中産階級の購買力にも注意を向ける。
海を渡った無数の中国人移民たちは、アフリカ市場の巨大な経済機会を本能的に感じ取ったのだろう。しかし著者は、経済大国中国の関与によって、アフリカ諸国の勝ち組と負け組への両極分解が加速すると予言する。賄賂の広がりによるガバナンスの劣化も心配だ。
本書を読むと、中国とアフリカの接点を軸に、世界史が大きく回転し始めたことがわかる。移民たちが引き起こす摩擦は、巨大な歯車がきしむ音だ。さて、日本はどうするのか。
(同志社大学教授 峯 陽一)
[日本経済新聞朝刊2016年5月1日付]
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