私のサイクロプス 山白朝子著
グロテスクでも読後感 爽快
かつて、飛騨山中で美貌の女怪に出会う泉鏡花『高野聖』という幻想小説があったが、本書はまさにその流れを汲(く)む、妖しくも美しい怪奇幻想短編集。
舞台は江戸時代。すぐれた書き手ながら超方向音痴の作家・和泉蝋庵(ろうあん)が、旅に出ては迷子になり、供する耳彦がこれまたトラブルメーカーで、しょっちゅう怪異な事件を招きよせる、という趣向。版元の輪(りん)(今でいうところの女性編集者)も含めた三人が味わう九つの事件を描く。
表題作は、ギリシャ神話の怪物サイクロプスに似た怪物の住まう山村の物語。グロテスクな素材が多いわりに、読後感は白昼夢のように柔らかく爽やか。
毛髪のような栞紐(しおりひも)など、雰囲気をもりあげる造本の演出も、魅力的だ。
★★★★
(ファンタジー評論家 小谷真理)
[日本経済新聞夕刊2016年4月28日付]
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…
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